デザイナーinterview:三浦 秀彦さん

 

デザイナーの三浦秀彦さんをご紹介します。 三浦さんは某メーカーで電子楽器のデザインと開発に関わり、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで学ばれた後、ご自身のデザインスタジオであるCloud Designを立ち上げられました。 KONCENT ショップでも tidy から発表されている多くの商品をご紹介しています。

ご自身がデザインしたtidyの商品について、思いついたきっかけやコンセプトなどをお聞かせください。

三浦さん:tidyの場合は、生活の中で発想し、すぐつくってみて生活の中で確かめるというダイレクトで最もオーソドックスな方法で進めています。プロジェクトごと意識的に違った方法やアプローチを採るようにしていますが、どの場合でも何らかのリアリティをベースにしていると思います。

KONCENTスタッフ(以下K):tidyはありそうでなかったような、一工夫あるデザインが多いですが、日常生活が発想のもとなのですね。

写真はtidyのKopロールクリーナー

デザインやモノづくりに興味を持ったきっかけは?

三浦さん:二宮康明さんの「よく飛ぶ紙飛行機」という切り抜いて紙飛行機が作れる本です。4才ぐらいの時、「セカンダリー・グライダー」を一人でつくったことを今も覚えています。ものをつくることの原点でもあります。それが自分でデザインであることに気づくのはだいぶ後になってからですが・・。

K:手を動かすのが好きなお子さまだったんですね。tidyの開発会議ではよくモデルをご自分で作ってきてくださいますが、子供時代からずっとつながっていることなんでしょうね。

■デザインを意識しはじめたのはいつ頃からですか?

三浦さん:中学のころ、”Yellow Magic Orchestra”を聴き始め、レコードジャケットやパンフレットのグラフィック・デザイン(奥村 靫正さんが手掛けていた。)、コンセプトや理屈っぽいこと、電子楽器等々に興味を持ったことです。自然豊かな田舎で野球の練習に明け暮れる坊主頭の中学生には、大きな衝撃でした。ちょうどのその頃、父親が工業デザインという職業があることを教えてくれたのも大きく影響しています。
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K:電子楽器のデザインをされていた過去にもつながるエピソードですね。

細野晴臣さん好きです。

最近凝っていることはなんですか?

三浦さん:なるべく凝ったり、こだわったりしないようにしています。

最近といってもだいぶ前からですが、日常の音を良く聴くようにしています。あと、食事の前に手を合わせてなるべく長く眼を閉じるようにしています。それと、きれい好きではないのですが、掃除を良くします。気分転換の為に。

日常の音のサンプリング http://soundcloud.com/cloudwaterair/sounds-from-monday-afternoon-1[外部リンク]

K:日常の音ですか。このURLのウェブサイトで聴ける音は、三浦さんがサンプリングしたものなんですね。こうして聴くと、普段あふれてる生活音や外の音がとても特別で珍しい音のように聴こえて新鮮ですね。KONCENT事務所では、いつもラジオかiTuneで音楽をかけていて何もかけていないときが滅多にないので、たまにラジオも音楽もかかっていないときに、外から聴こえる何気ない音にはっとすることがありますよ。

自分を一言で表すと?

三浦さん:不明。

不明な素材である自分に自分が対している感じです。自分が次どうなるかいつも楽しみにしています。

K:この質問、みなさんを悩ませているんです。笑 さらっと答えてくださってありがとうございます。

休日の過ごし方は?お気に入りの場所などはありますか? 

三浦さん:休日も平日もあまり違いはありませんね。仕事しながら子供と遊んでいたりしますので。 仕事も好きでやっているので趣味のようなもの、毎日が休日のようなものです。好きな場所は自宅/仕事場ですかね。 それと庭です。

K:写真の手前にあるのは柚子の木でしょうか。

いい雰囲気のお庭ですねー。 三浦さん:手前の木は夏みかんの木なんですよ。

K:夏みかんが家のお庭でとれるなんて! (それを聞いてKONCENTスタッフ達はとてもうらやましがっています。) 近くにこんなすてきな環境があるなんて、 娘さんにもとてもいいですね。

尊敬するデザイナーやアーティストはいますか?

三浦さん:ウイリアム・モリス、エゴン・シーレ、チャールズ&レイ・イームズ、ブルーノ・ムナーリ、ロン・アラッド、ヴァルター・ピヒラー、若林奮、マーク・ロスコ、リチード・セラ、アンゼルム・キーファー、ジョナス・メカス、テリー・ライリー、デヴィッド・シルヴィアン、ベン・ワット、ヴィレム・フルッサー、西田幾多郎、ガストン・バシュラール、、、、、。

K:おおー。そうそうたる面子。 でも残念ながら、私、半分ぐらいしか知りません。勉強します!

今後の展開について教えてください。

三浦さん:モダニズムの行方が気になっています。同じ意味で、プレモダンの思想や近代以前の暮らし方と世界観、よい言い方がないのですが、精神性とか霊性というかそんなところに興味があります。

K:なんだか難しそうです!噛み砕くと、どんなことですか? (スミマセン・・・。)

三浦さん:まあ、あまり難しく考えているわけではなく、既存のデザインの概念にとらわれず、何者でもない自分が、デザインを超えてゆく為の足しになればと思っています。

K:なるほど。そのために大切にしていることや、心がけていることはありますか?

三浦さん:最近特に、仕事をすることの充足や子育て、しっかりと暮らすことから発想して、モノや場、関係性を創り出すことが大事だと思っています。

それと生活の中で必要なものもしくは、

必然性のあるものをなるべく何でもつくりたいと思っています。
それも、なるべく家庭内で。
CNCや木工加工の工具、カッティングマシンなど
少しずつ増強しつつ、パーソナルファブリケーションの
環境を整え、実践を行いたいと思っています。
K:娘さんの椅子を作られたようにですね。
そう言われてみると、今ではなんでもかんでも買ってまかなうのが当たり前になっていますが、私たちのおじいさん・おばあさん世代では自分たちで作ることが多かったように思います。

三浦さん:よく、職人さんは自分の道具を自分で作ってメンテナンスも自分でしますが、

職人さんでなくても暮らしの中で当たり前に行われていたことだったのでしょうね。

家や庭木の雪囲いもそのひとつですよね。

その家のおじいさんとお父さんが、冬が近くなると大抵半日くらいでやってしまうんです。

毎年その作業をするために、使いやすい道具も自分で工夫をして作ったり。

そういうのって三浦さんがおっしゃる「近代以前の暮らし方と世界観」につながるものなのかなと思いました。

これは、「Make」や「Fab Lab.」に代表されるDIYまたはDIWOの流れであるだけでなく、プロダクトとユーザーの関係を再定義する動きだと思っています。

有形、無形にこだわらず問題解決や創造、それに関する実験を続けていきたいです。 そのことと同時に自己の意識も広げていきたい。 その時々の空気感をより鮮明に感じたり、気象や季節に対する感受性、音響に対する感性や場のもつ力、テクスチュアを感じ取る力などなど、まだまだ透明度を上げられると思っています。 そのことで世界の密度、充実度が増すのではないかと思います。

K:透明度というのは、いわば人間の生きる力や洞察力のようなものでしょうか。

tidyで発表されている三浦さんのデザインは、生活の中に自然にある動作がそのまま形になったような使い心地があると思いますが、それは普段からされている生活に対する観察や実験が反映されているものなのですね。

三浦さん、どうもありがとうございました。

三浦さんのウェブサイトはこちら www.clouddesign.com[外部リンク]

三浦さんのデザインはこちら