長大作さん

デザイン関係の色々な展示会を回っていると、さまざまな場所で出会う長大作さん。
子供のような好奇心いっぱいの目をして、若い人のデザインを吸収するように歩いてらっしゃいました。
出会うたびにご挨拶を気軽にしていただき、「ご一緒に仕事を是非にさせてください。」とお願いすると
「そうだね…考えておくよ…」とかろやかに言っていただきました。
世田谷美術館で行われていた長大作さんの個展では、
「よく来てくれたね…」と笑顔で迎えていただき、長い時間丁寧に一点一点ご説明をいただきました。
二人で話をしていると、いつの間にか大勢の方が集まり一緒に聴いていました。
「これでは、ギャラリートークですね。」と大笑いをした笑顔が忘れられません。
ある日には、デザイナーの塚本カナエさんとアッシュコンセプトのショールームで打ち合わせをしていたら、突然、BMWに乗って現れました。その時のカナエさんの驚いた顔!「カナエさんすいません。」と私が謝ると…カナエさんは「長さんを最優先にしてください…^^;」と言っていただき、長さんからご依頼のミーティングに変わってしまいました。最後には、スタッフ全員で車をお見送ることに…やんちゃなお方でした。
その長大作さんを最近見かけないと友人が話していたのでとても気になりました。
連絡をさせていただき、「お元気ですか?」とお話ししたら、
「名児耶君、もう私はいいから、若い人と色々モノづくりをしなさい。」と言われ、
老人ホームに入ったことを告げられました。
私はびっくりして、スタッフと飛んで行きました。
陽射しの暖かい日で長大作さんは、我々を笑顔で迎えてくれました。
ちょっと照れ臭そうに、しかしながら只者では無い人であるオーラは失っていませんでした。
「何か新作を一緒に考えましょう。」とお願いすると「もう僕はいいから…」とくりかえされ…
「世田谷美術館でお教えいただいた、机や椅子の四角い足の角を頂点から切り出すと45度回転した一回り小さな四角が底辺に生まれ、サイドに三角形が出来るんだ…。あの発想で徳利とお猪口をデザインしてくれないですか?」とお話ししたら、
急に目を輝き出して、「良いかもしれない!」と一言。
「スタッフで図面を描いて来ますので監修をしてください。」とお願いしました。
数日して、長大作さんから連絡が入り、「名児耶君、もう一度遊びに来てくれ…」と。
スケジュールを調整して飛んで行くと、そこには長さんが手作りされたペーパーモデルがいくつも出来上がっていました。
嬉しそうな笑顔で「どうだい?」と言う表情でした。
生粋のデザイナーだましいのある方なんだなぁと嬉しく、大至急で試作の陶器に進めました。
製作に力を貸してくれた窯元は、長大作さんの作品と聞いて、
難しいピン角なども当たり前のように作ってくれました。(嬉しい影響力でした。)
出来上がった商品を見て満足いただいた長大作さんは、
生誕90年のお祝いに、ご自身のお名前と90の数字を入れた、
特別バージョンを親しい方々にお送りになっていました。
Shuki(シュキ)は、海外の大使館の奥様にご購入されたり、
センスの良い方々に認められて現在も育っています。
そして、5月12日1枚のハガキが届いたのでした。
5月1日に長大作さんが、92歳の人生を終えられたとのお知らせでした。
時間はあっという間に経ってしまいます。
スタッフとも長さんのところにお邪魔して、第二弾を企画しようと話していた矢先でした。
実の妹さんともお話をお伺いし、随分元気が無くなって来ていたそうですが、
今年の3月のある日に昔のように元気に色々話されて、車を取りに行こう、家に帰ろうと言い出した時があったそうです。
・・・・最後は、眠るように苦しむことなく息をひきとられたとのお話でした。
悲しいです。
私たちの大好きなデザイン界で、歯にモノ着せずにストレートにお考えを述べられて、
自分自身が重鎮である事など気にもせず、
いつも本音で少年のような好奇心とデザインへの取り組みをされて来た姿は、
背中でモノを言うデザイン界の父のような存在でした。
長大作さんが、残された影響は、心の中で生き続けていきます。
本当にありがとうございました。そして心より御冥福をお祈りいたします。
名児耶秀美
h concept.     Hideyoshi Nagoya
 
 
四角柱のようでいて、三角錐のようでもある、
不思議な魅力をもった造形の猪口と銚子の酒器セット。