【h concept × LIFESTYLE SALON】TALK Session 2 『地方創生のブランディング』

2021年6月30日より3日間にわたって浅草橋ヒューリックホールで開催されたアッシュコンセプトの新作発表イベント『h concept × LIFESTYLE SALON』。初日となる6月30日に実施されたトークセッションのレポート第2弾です。

(株)GKデザイン機構の代表である田中 一雄(たなか かずお)氏を迎えた第1弾に続く今回は、『地方創生のブランディング』とテーマを掲げ、(株)スマイルズのプロジェクトマネージャーである吉田 剛成(よしだ たけなり)氏と、旭工業(有)の代表取締役であり、アッシュコンセプトとの共同プロジェクトである『あやせものづくり研究会』の会長も兼任する嶋 知之(しま ともゆき)氏に、名児耶を加えた3名によるプレゼンテーションと鼎談が行われました。


*画面左より:スマイルズ・吉田 剛成氏 / 旭工業・嶋 知之氏 / アッシュコンセプト・名児耶

 

 

違いを探し、磨き上げ、外に伝える。

最初にプレゼンテーションを行ったのは、スマイルズの吉田氏です。まずは『スープストックトーキョー』をはじめとした同社の幅広い事業展開と、「生活価値の拡充」「世の中の体温をあげる」といった理念や大切にしている価値観の紹介があり、それに続いて今回のトークセッションのテーマに合わせて、事例が説明されました。


*最初の登壇者は『スープストックトーキョー』の店長経験もある(株)スマイルズの吉田氏。

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まず1つ目の『江東区のものづくりブランディング』は、ガラスや鉄、紙などさまざまな商材を扱う40社を超える企業のブランディングとPRを担当したプロジェクト。それら多岐にわたるジャンルの企業と協業しながらも「江東区のものづくりに共通する価値はなにか」という点を、スマイルズなりに徹底的に考えたと吉田氏は話します。そして生まれたのが『近くて、早くて、何でもできる』というコンセプトです。

江東区は当然ながら、東京都内にあるものづくり現場なので、依頼する企業からすると、ちょっとした相談でもすぐに会いに行ける「近い」場所にあるという地理的なメリットがあり、それが故に、当然「早い」というスピード的な優位性もあります。前述の通り、一つの業種に特化しているわけではなく、多種多様な業種の集積地であり、また伝統的な歴史を持つ企業でないと入り込めない地域でもないので「何でもできる」という“縛りのなさ”もコンセプトに込められているとのこと。プロジェクトの立ち上げ時には、「江東区が何かモノづくりをしたいと考えるクリエイターや企業の方が頼れる基地になれるといい」といった話をしたと語ってくれました。

具体的な取り組みとして、このトークセッションの会場でも来場者全員に配られた1冊のブックレットがあります。1社1社にキャッチコピーをつけるなど、手間を惜しむことなく、各社の良さが際立つものに仕上がっており、吉田氏は「各社の名刺がわりになるよう心がけた」「これに掲載されることを誇らしく感じてもらえるようにつくった」と語っていました。さらに公式サイト『江東区ものづくり団地』では、自分たちの技術力や商品展開を発表できる場として展開しているそうです。


*会場でも配布されたブックレットは、まるで写真集のような立派な仕上がり

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2つ目の事例は、「モノよりも人」をコンセプトにプロジェクトを進めている『福島県の地域商品を扱うECサイト』。吉田氏自身の「いいものは、作っている人が面白いはず」という仮説のもとに、「モノ」ではなく「人」にフィーチャーしたECサイトをプロデュースしたと話します。そこには商品力で勝負しても、大きな資本力を持つ競合や、先にやっている競合には勝てないという判断があったとのこと。
コンセプトは「それは、遠くて近い 愛らしくて、知らない人」。ここには、親戚からの仕送りのような感覚で、購入した福島の地域商品が届く、という意図が込められています。また「モノがほしいから買うのではなくて、人を応援したくて買う」「エレクトロニック・コマースの略である『EC』を、“エモーショナル・コマース”という造語に読ませて、情緒や人間関係の取引ができないか」といった、既存のECサイトとは“逆張り”のアイデアやアプローチを大切にしてきたことに言及。

「商品やブランドにある特徴や他との違いを探し、それをきちんと拾い上げて、磨くことで価値に変え、外に伝えることができれば、ブランディングができると信じている」というまとめの言葉を残して、弊社の名児耶にマイクが渡されました。

 

最高のエールは送る。だけど、答えは出さない。

続いて登壇した名児耶は個別の案件を紹介していく前に、デザインプロジェクトへの向き合い方の話からプレゼンテーションをスタートさせます。最初に名児耶が強調したのは「プロジェクトには答えがない」ということ。仮に答えがあるのであれば、プロジェクトをやる必要はなく、経営者の判断で自らが行動をしていけばいいという主張でした。


*「答えがない」「答えを出さない」と力強く語るアッシュコンセプト代表の名児耶。

そのように霧の中を進む船の道案内をする上で、もう一つ大切にしていることは「外部であるアッシュコンセプトが答えを出してはいけない」ということ。答えを与えてしまうと、継続性がなくなってしまうというのが名児耶の考え方です。その為、経営者や開発担当、技術者、営業、品質管理、広報、デザイナーなど、さまざまな人が同じプラットフォームの上に集まり、一生懸命に考えて、最終的にはユーザーが楽しんで使う姿をイメージするのが重要だと話します。その中でアッシュコンセプトが担うのは、デザインというツールを用いて、具現化や視覚化のお手伝いをすることであり、さらにコストをかけずに、小さな失敗をしやすくすることだと説明しました。

さらにもう一つ語られたのが、“21世紀型のデザイン”について。つまり“カタチをデザインする”昔ながらの手法ではなく、価値をつくるためのトータルのプロセスをデザインすることが21世紀型であるということ。カタチや素材、色だけでなく、プライシングや、どういうデビューのさせ方をするのか、どういう売り方をするのか、どうやってメディアを集め、どうやって流通させるのか。それらすべてができてこそ、価値が生まれると語気を強めます。

モノが溢れ、もはや物質的な満足度は求められていない時代。ユーザーたちは、より精神的な部分を満たすためにモノを買いたいという欲求を持っています。それを満たすために必要な要素が3つあると名児耶は説明。その1つ目は「理性」。プライスや品質を指す要素です。次に「感性」。これはデザインや色、センスと呼ばれるような部分になります。そして最後は、今の時代に重要とされる「知性」です。これは「再生資源が使われていて、環境にいい」といったバックストーリーや、つくった人の思いの部分を指します。この3つすべてが必要であると宣言し、個別の案件の紹介へと進んでいきます。

まずは、「洗濯しなくていい、敷きっぱなしでいい、バスマットの革命」と称した、石川県の(株)イスルギとチームを組んだ『soil』からスタートし、その美しい加飾を「これはもう現代工芸です」と絶賛した墨田区の吉田テクノワークス(株)との『ornament』。「見せていい掃除道具を」いう思いから始まった、清掃用品のトップメーカーである(株)テラモトと協業する『tidy』。石川県の山中漆器をルーツに持つフードウェアカンパニー(株)竹中と組むことで、タフで楽しくてクリエイティブな新しいライフスタイルを提案するために生まれた『tak』。日本の90%以上の手袋をつくり出す香川県に位置するルボア(株)と組んで、同社の林 周二(はやし しゅうじ)社長の「h」、デザイナー宮城 壮太郎(みやぎ そうたろう)氏の「m」、そして名児耶の「n」、そして「あなた」を意味する「You」のそれぞれ頭文字をブランド名とした『hmny』と、ミニマムな革製品を提案する『CORGA』。さらに北海道旭川市の家具メーカーである(株)匠工芸と、家具が売れない時代を迎え、百貨店でも家具売り場がなくなっている現状を打破するべくつくった『h × TAKUMI』。そしてこのトークセッションにもゲストとして登壇いただいている旭工業(有)代表の嶋 知之氏が会長を務める『あやせものづくり研究会』がリリースした「Sumi」「Tetsu」「Ori」「Sekiei」の4つの製品を一気に紹介。
限られた時間の中、非常に駆け足ながら、とてもたくさんの事例が、プロジェクトを進める中でのエピソードや、名児耶本人が感じた思いなどとともに、説明しました。


*名児耶のプレゼンの中で紹介された多くのブランドが、別フロアで行われた新作発表会で展示されていました。

最後にはアッシュコンセプトのオリジナルブランドとして展開している『h tag』と、障がい者の方々のものづくりを支援することを目的に立ち上げられた『equalto』に触れて、名児耶によるプレゼンテーションは終了します。
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成功への長い道のり。大切なのは情熱と強い意志。

続いて行われたのは、『あやせものづくり研究会』の会長である嶋知之氏を含めた3名による鼎談です。まずは嶋氏がマイクを握り「やっと出番が来ました」と会場を和ませ、さらに簡単な自己紹介とあやせものづくり研究会の説明を行います。


*普段は作業着で、顔に黒い炭がついていると話す嶋氏も、この日はクールでスタイリッシュな装い。

『あやせものづくり研究会』は、神奈川県綾瀬市でものづくりに携わる4つの企業が集まり「綾瀬市」をPRするためにアッシュコンセプトと手を組んで進めているプロジェクト。嶋氏は市の担当者から「デザインをするだけでなく、すでに販路も持っている」とアッシュコンセプトを紹介してもらい「じゃあこっちはつくるだけで、大ヒットだな」と感じたにもかかわらず、最初はまったく売れなかった、という笑い混じりの思い出話を紹介し、それには名児耶も大爆笑。2人の関係性の良さが伺いしれます。

そこから嶋氏と名児耶の2人が出会った時の回想録や、製品が生まれるまでの苦労の歴史を語られていく中で、スマイルズの吉田氏と名児耶が共感し合うポイントが出てきます。それは「コンサルティングとして外部の企業が携わったとしても、なかなかすぐには成功しない」ということ。吉田氏はスマイルズでは外部のプロデュースだけでなく、自社事業も展開しており、成功への道のりの長さはその両方で痛感していると語っていました。例えば自社事業における代表的なブランドである『スープストックトーキョー』においても、ある程度の知名度が得られたにもかかわらず、赤字期間はあったと告白。「やりたいことをやっているから、10年は粘って、11年目から良くなってきたらいいね、くらいの感覚」と、かなり長期的な目線で事業を進めていることを教えてくれました。

もう一つ、吉田氏と名児耶が同じ意見を持っていたのは、「プロデュースされる側の企業の方々が、“自分ごと”としてプロジェクトを考えてくれるかどうか」ということ。その点で、あやせものづくり研究会では、嶋氏をはじめとした参加企業の方々が「何をつくっていくか」を、一緒になって一生懸命に考えてくれる、と名児耶。


*この鼎談をきっかけに、新しいプロジェクトが立ち上がるかも!?

.スマイルズやアッシュコンセプトのような外部の企業は、応援団となって最高のエールは送れるものの、やはり実際に事業を進めるのは本人たちであり、これまでの地方創生ブランディングに関わる成功例のすべては、プロデュースされる側の情熱や強い意思があったからだと総括しました。

嶋氏もそれに応え「アッシュコンセプトの存在は、パートナーとして本当に心強いので、これからもガンガンやっていきたい」と熱い思いを語り、吉田氏が「楽しそうなので、僕も仲間に入れてください!」と2名の笑いを誘ったところで、3名による鼎談が終了しました。


*穏やかな笑顔の中に隠されたものづくりへの情熱は、相当なもの。


「ほしい」と「売れる」をどう両立させる?【来場者による質問】

続いて、来場者からの質問が3人に向けられます。このレポートで紹介するのはブランディングやプロデュースを手がける側である吉田氏や名児耶に向けた「自分が買いたいと思うものと、実際に売れる製品との折り合いはどのようにつけるのか」という問い。

その鋭い質問に対して、先にマイクを取ったのは吉田氏です。回答として語られたのは「自分は普通の人間だと思っているので、自分がいいと思ったら、自分と親しい人は同じようにいいと思ってくれるという仮説のもとに成り立っている」ということ。その上で、いろいろな人に見てもらって「どう思う?」「いくらだったら買う?」というリサーチも欠かさないと教えてくれました。


*吉田氏は外部ではなく“同じ会社の人”として、製品開発やブランディングを進めていると語ります。

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名児耶の回答も近いもので、まずは自分が「ほしい」「買いたい」と思えなければ、プロジェクト自体に熱が入らないと強調。その上で、製品化へと進むプロセスの中で、しっかりとモニター調査は行っていると答えます。特に「こういう人に買ってほしい」というターゲットを細かく設定し、その属性に該当する人たちを集め、実際にものを見てもらいながら、意見交換を行い、ヒントを得ることで、改良につなげるのが通常の方法と説明。とはいえコロナ禍の影響で多く人を集めることが難しくなった今は「僕にとっての一番のモニターは、妻」「僕にとって、一番おっかない人だから」とお茶目な発言も。


*「できない理由よりも、やれる方法を」。これからも無数のデザインプロジェクトが進んでいくでしょう。

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最後に名児耶から改めて語られたのは、自分自身がやる気を持って行動しないと、何も生まれないということ。そして、誰かがやってくれると思っているうちは絶対に成功しないという強い主張でした。それはこのトークセッションで扱われたような、事業やビジネスとしてのブランディングやプロデュースだけに限らず、自分の人生をデザインする必要がある人、つまりこの世に生きるすべての人に当てはまる考え方であり、みんなが前向きに一歩踏み出してほしいと話します。さらに「できない理由を語るよりも、やれる方法を探す方が大好き」と自身の信条ともいえる言葉を残し、本トークセッションが締めくくられました。