KONCENTエピソード3 生活に新しい価値をつくるブランド「I’m D」

機能美を追求した生活用品のブランド「I’m D」。
シンプルでありながら美しく、暮らしの中に溶け込むような存在感が魅力です。
名デザインの数々は、アッシュコンセプトと岩谷マテリアルのプロジェクトから誕生しました。

interview:Mirei Takahashi

 

まずは1つ、素晴らしいデザインを完成させる

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アッシュコンセプトではオリジナルブランド「+d」の他に、国内のメーカーと手を組んで新しいデザインを送り出して、それぞれがひとつのブランドになっています。最初に立ち上げたのが、「kcud(クード)」や「RETTO(レットー)」シリーズが人気の「I’m D」ですね。

アッシュコンセプト代表/デザインディレクター 名児耶秀美
アッシュコンセプトを立ち上げてすぐの頃、「新商品を一緒に開発しませんか」と声をかけてくれたのが積水ライフテック(現・岩谷マテリアル)の開発部長だった方でした。でも実は、僕は大手メーカーが好きじゃなかったので、以前は一度も仕事をしたことがなかった会社なんですよ。

大手メーカーを嫌いになってしまう出来事がこれまで何度もあったということですか!?

組織として規模が大きい会社では、新商品開発のたびに「稟議、稟議、稟議‥‥‥」ってなるでしょう? そのうちに、会ったこともない立場の人が勝手に色や形を変えてしまうことだってある。その段階でデザイナーに「はいこれできました」って言っても、「こんなの僕らの仕事じゃない」と否定されてしまうようなことが起こり得ます。だから、彼らの申し出も一度断ったんです。

でも数日後、また電話がかかってきて、「社長に怒られました。お前の熱意がないから受けてもらえないんだって」と。

正直な方ですね(笑)

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僕は、「熱意の問題じゃないって、社長にちゃんと言ったの?」って答えましたよ。僕らがデザイナーと決めた色や形を後から勝手に変えないこと、僕もプロとして絶対に売れるものを開発するから信じてほしいこと、言われたとおりに受けてくれるんだったらプロジェクトを立ち上げたいと思っていること‥‥‥すべて約束してくれるなら引き受けましょう、と。その結果として、好きなようにやっていいと言ってもらえたんですよね。

そこで、まずは1つの商品をていねいに完成させようと決意しました。

名児耶さんの頭の中にはもうアイデアがあったのですか?

全然ない(笑)。デザインのコンサルティングをするのも最初の経験だったし、今振り返ってみても、ゼロからのスタートでした。

まず本社を訪問して社長と直接、話をさせてもらいました。工場で製造しているものを実際に見て状況を把握しながら、この会社の強みは何だろうかと考え、何を作るべきなのか探っていくことから始めて、たどり着いたのが「ゴミ箱」だったの。

日本一、ゴミ箱を売っている会社だけに、ショールームにもゴミ箱がたくさんあってね。それを、「一番売れているものから10位までを並べてください」とお願いして、一番売れている商品の理由を聞いてみたら、「他社と比べて数百円安いから」「他社にはこの機能がないから」「これは他社よりも販路が多いから」‥‥‥。

つまり、商品に個性があるからではなくて、他メーカーとの競争だけだったということですね。

そう。買う人のことを考えていないんだよね。他社との比較や市場での生き残りばかり考えていて、大企業が陥りがちな競争社会の中のメーカーの立ち位置しかなかった。だから逆に僕は、これだったらお客さんに喜ばれるゴミ箱が作れるはずだと確信したよ。「僕が買いたいと思うゴミ箱はこのなかにありません」、と断言してしまったくらいです。

 

 

ロングセラー「kcud(クード)」の誕生

生活の中で頻繁にゴミ箱を使っているのは、主婦が多いはずですよね。特にキッチンではね。当時は特に、小さいゴミ箱を各部屋に置くよりも、大きなゴミ箱をキッチンに置いてゴミは直接そこにまとめるような使い方が主流になっているなと感じていたので、それには主婦の感覚が不可欠だと思っていました。ちょうどそのとき、前職(マーナ)で一緒に仕事をしていたデザイナーの野田純江さんが育休中だったのを知り、すぐに声をかけました。

使っている人の目線を期待したという訳ですね。デザイナーとしてのスキルと主婦としてのリアルを持ち合わせていることが大切だった、と。

あらゆるタイプのゴミ箱を見ながら打ち合わせした末に、「本当にシンプルなゴミ箱を作ろう」ということになったんだよね。

蓋の上はモノが置けるように真っ平らがいい。ゴミが多くなると重くなるし、掃除のときには動かしやすいようにキャスターをつけたい。しかも、中途半端な大きさのキャスターじゃなくて、大きくて動きやすさが伝わる存在感のあるキャスターにしよう。両手がふさがっていても開けやすいペダル式を採用しよう。でもペダルが出っ張っていると足をひっかけるので、ペダルは内側に入れ込もう。そこで生まれるテーパーのおかげでゴミがいっぱいになっても出しやすくもなる。そんなことを話し合いながらデザインを進めていきました。

もともと積水ライフテックで製造していたゴミ箱のリニューアルではなく、フラットな状態から発想したことによってまったく新しいユーザー目線から産まれたゴミ箱になっていったんですね。

 

クード30 5ようやく形が出来上がってきて、ユーザーによるモニター調査をかけたときには驚いたよ! モニターとして参加してくれた皆さん全員が「すぐに買って帰りたい」と言うほど気に入ってくれたんだ。

まだ発売前ですよね? そんなことって滅多にありません。

いや本当に、「どこで売っているんですか?」と聞いてくれたほどです。使いやすいゴミ箱を探して、「ゴミ箱ジプシー」みたいになっている人もいっぱいいるんだと知ったときは、正直、すごいところに温泉を掘り当てたみたいな興奮だったよ。これは売れる! と確信できた。それぐらい「kcud(クード)」は衝撃のデビューでした。

 

 

kcud(クード)という名前も不思議ですよね。

商標権を取るためにどのメーかーも苦労するものですが、I’m Dは、逆さま英語で統一してみようということにしました。ゴミ箱が蓋をあけた姿がまるでアヒルのように見えるから、「duck」の綴りを逆にして「クード」。いまでも、I’m Dの商品はすべて逆さま英語がついています。

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メーカーの都合で作るのではなく、使う人が本当にほしいと感じるものを作る。当たり前のことですが、従来の常識から「逆転の発想」をした気持ちをいつまでも忘れないで、ものづくりを続けていこうという意味も込めています。

 

 

暮らしを美しくする「I’m D(アイム・ディー)」

積水ライフテックの事業構造改革によって、インテリア関連用品のデザインプロジェクトが岩谷マテリアルへ事業譲渡されるタイミングで「I’m D(アイム・ディー)」ブランドを立ち上げたとのこと。名前は、「岩谷マテリアル・デザイン・プロジェクト」の頭文字と、ユーザー(私)を中心に考えるデザイン、そのコンセプトを掛け合わせたそうですね。

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みんなが本当に必要としているのにぴったりのものが見つからず、例えばゴミ箱のように、実は家の中に必ず1つはあるのにデザインが完成されていないものをもっと使いやすく、美しくしたい、というのがI’m Dの考え方です。

積水ライフテックがなくなる時、開発メンバーは優秀な社員ばかりだったからそのまま積水化学という大企業に残れるにもかかわらず会社を辞めて、岩谷マテリアルへこのプロジェクトといっしょに転職したんだよ。驚くでしょ!

人生を変えてしまうデザインプロジェクトですね!

 「kcud(クード)」が完成してしばらく後、営業担当者から電話がかかってきて、なんて言ったと思う? 「名児耶さん、どうしたらいいでしょうか? お客様から電話がかかってきて、クードを売ってくださいって言うんですよ。いままで僕、買ってくださいとしか言ったことなかったのに」って(笑)。笑い話みたいだけど、本当に。でも、営業にまでデザインが関わるって、こういうことです。バイヤーの顔色を見て新商品を売り込むばかりが営業じゃありません。営業もデザインできるのです。

 

「kcud(クード)」はゴミ箱としては当時、考えられなかった白色にしたことも大きな成果。開発担当者は、「白いゴミ箱は汚れます」と主張していたけど、「インテリアの基調はまず白。デザインを尊重するって約束したよね」って押し切って正解でした。

本当に便利で誰もが使っているもののなかにも、実はまだデザインが足りないところはたくさんあります。デザインにおいて、美的造形性は非常に大切な要素。それだけだと思われるのも嫌ですが、重要なことは間違いありません。だから、I’m Dではデザインの根っこにある美的造形性をきちんと実現していきたい。生活の周りに美しいものがたくさんあれば、生活そのものが美しくなるんじゃないかな、と思うからね。

 

分別用のゴミ箱や、ゴミ周辺のものをきれいに作り直していこうという最初の目的を進める一方で、バス・トイレ周りの商品にも画期的なデザインが生まれてきましたね。

 

 

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プロジェクト当時(2008年)

バスルーム用品に関しては、デザイナー橋田規子さんとの出会いがターニングポイントでした。

とあるパーティー会場で「バスチェアって興味ありませんか?」って突然話しかけられたんですよ。当時TOTOのチーフデザイナーをしていた橋田さんは、独自にバスチェアをデザインしていて、TOTOでは小物関係の商品は作らないということで、どこにアイデアを持っていけばよいか悩んでいたところだったんです。でモックアップを持っているから見てほしいって言って、パーティー会場にバスチェアを持ってきてみせてもらったら(笑)とても良くてね。ただ、大きさや細部の点で手を加えるべき部分もあったので、話し合いながらデザインを実現化していったのです。

そして、これをきっかけに橋田さん自身が我々のデザインのやり方に刺激を受けて、数年後独立することになっちゃったんですね。それからも水廻りに関する新しいデザインをしてもらっていますよ。

またひとりの人生を大きく変えてしまった‥‥‥。

第一線でお風呂の空間をデザインしていた人が良いと感じるバスチェアをデザインしているんだから、間違いないと確信していました。岩谷マテリアルの担当者は、どう作ってもすごく高いバスチェアになってしまうと心配していたのも分かります。ホームセンターで売っている商品は高くて1000円くらいでしょ。でも、「大丈夫。TOTOでバスルームを作ってきた人がデザインしたんだからきっと売れる」って押し切って(笑)。

そうして完成したのが、バスチェアと湯手おけのシリーズ「RETTO(レットー)」ですね。私も自宅で使っていますが、スマートなバスチェアはほんの少し高さのある背もたれが抜群のデザインだと思いますし、湯手おけはフックに吊るしておけるからカビがつきにくくて嬉しい。(※湯手おけは野田さんのデザイン)

bathchairでも実は、バスチェアは発売当時、全然売れなくてね‥‥‥。ところが、しばらくするうちに徐々に売れ始めてきて、他のメーカーもそんなに高い風呂椅子がなぜ売れるんだよ、と驚いたと聞きました。

それまでは、バスルームが洗練されていってもお風呂のインテリアにふさわしい商品がデザインされていなくて、満足できる小物類が少なかったという背景も考えられます。部屋を気に入ったものでコーディネートするのと同じ感覚がバスルームにも持ち込まれたということではないでしょうか。

 

 

I’m Dはその点で、家の中のファッションアイテムとも呼べるものを切り拓いてきたブランドです。樹脂製でも作り方次第で存在感のある、生活を少し豊かにするものができるということを証明しているよね。成型用の金型もコストがかかるし、成型技術も海外に比べると日本は高いけど、その分、日本の技術力があったからこそ完成度が高くなったんだと思います。

+dがデザイナーからの自由な発想で生まれるのと対照的に、I’m Dは暮らしの中で必要とされるものを見つけ出すデザインのようです。

DSC_0124デザイン的に強い点を集めて、美しい面を暮らしに広げていくようなイメージだね。プロダクトとしてはとてもシンプルだけど、たとえばシャンプーボトルもバスルームの壁面に馴染みやすい直線とほんの少しの曲線で構成されていたり、詰め替えがしやすくて、片手でもプッシュしやすかったり。持ち上げやすいのもバスルームの掃除にはとても便利。それでいてデザイン性が高いことが大切。

以前から浴室介護用品などでバスチェアは種類もたくさんあったけど、デザインを追求したとは思えない商品ばかりでした。

 

 

日常的に消費する生活用品、家庭用品にも美しいデザインを成立させた、“開拓者”のようなブランドですね。最近は、ほかでも似たようなデザインが多くなっているような気がしますが。

真似されるのが、本物の証かもしれない(笑)。

振り返ってみると、積水ライフテックの時代から一緒に開発を進めて、いまだにプロジェクトを支えてくれるメンバーがいるのは、何より嬉しいことだよね。

 

I’m D(アイムディー)製品一覧はこちら▼

I'mD(アイムディー)

 

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“ I’m D [アイムディー] ”は2006年度に岩谷マテリアルのライフデザインプロジェクトが、美しく機能的な日用品をつくるためにスタートした、デザインを大切に、生活に価値をつくるブランドです。
岩谷マテリアル株式会社
東京都中央区八丁堀3丁目14番2号 東八重洲シティービル

 

phot_mirei聞き手: 高橋美礼/Mirei Takahashi

デザイナー、デザインジャーナリスト。多領域のデザインに携わりながら、国内外のデザインを考察している。編集、執筆、デザインコンサルティングをおこなう。
主なデザインに「TsunTsun」(宮城壮太郎氏と共同デザイン/アッシュコンセプト「+d」)、「物語がはじまる」(世田谷美術館)、「トーキング・トーキンビ」(東京国立近代美術館)など。共著に「ニッポン・プロダクト」(美術出版社)、「2000万個売れる雑貨のつくり方」(日経BP社)など。多摩美術大学非常勤講師。落語好き。