KONCENTエピソード「KONCENT」はこうして生まれた

東京の下町、蔵前にある「KONCENT」。アッシュコンセプトのオリジナルブランド「+d」や、日本全国の産地で生まれた個性的なものがぎっしりつまったこの場所は、まるで“デザインの秘密基地”のよう。
いえいえ、隠されているわけではありません。
一歩足を踏み入れれば必ず、思いもよらないアイデアに驚かされ、愛嬌たっぷりな日用品に思わず笑みがこぼれてしまうはず。
日々の暮らしをもっと楽しく、特別な日をさらに大切な思い出へと変える、さまざまなデザイン商品がここには揃っています。デザインと人、人と人、人と街とをつなげる、まさにコンセントのような存在なのです。
「KONCENT」のエピソードをひも解く第1回目は、アッシュコンセプトの代表でデザインディレクターの名児耶秀美氏に、「KONCENT」が誕生した背景をお聞きしました。
interview:Mirei Takahashi

 

ショップ誕生までの道のり
アッシュコンセプトは、デザイナーとのコラボレーションでたくさんの個性的な商品を世の中に送り出してきましたが、店舗をオープンする計画はいつ頃から始まったのでしょうか。

アッシュコンセプト代表/デザインディレクター 名児耶秀美


「KONCENT」のきっかけは、実は2つあります。
アッシュコンセプトは、オリジナルブランド「+d」のほかに、さまざまな企業や産地と一緒に商品開発やブランドづくりをしてきました。そのうちに気がついたらものすごい数の商品が出来上がっていたんですね。じゃあ、まずは展示会に参加して、ブランドごとに紹介するけれど、大勢の人たちがつながっていることを表現しよう、と名づけたのが「KONCENT」でした。それが最初のはじまりだね。

そうでした、国内の見本市会場で大きく「KONCENT」というブースを掲げていたのを見たときには新ブランドかと思ったのですがそうではなく、アッシュコンセプトが始めた新しい形のプロジェクト名のような存在でした。

それと、「SPEAK EAST」というイベントもきっかけのひとつ。
東京のイーストサイドエリアを拠点として活動するクリエイターが中心になって、デザインを主軸に多分野から同時発信するイベントで、それに参加しないかという誘いを受けたんですね。
すごくおもしろいクリエイターが集まっていて、街を変えていこうという動きが始まっているな、とすぐにわかった。でも僕らはショップを持っているわけではない。一度はそう言って断ろうとしたのですが、主催者が「でも参加してほしいんです」って。
じゃあ、普段ショールームは公開していないけど、その期間だけ一般に公開して『アニマルラバーバンド』やいくつか商品を置いて、買いたい人には売れるようにしてみようか、と参加することにしました。

それで、参加者リストをもらったその日のうちに、僕は自転車で全部の場所を回ってみたのね。
そしたらすごいんだよ。下町出身の人だけじゃなくて、街の魅力を知って移ってきた人がたくさんいた。
例えば、「台東デザイナーズビレッジ」って3年間すると退去しなくちゃいけないけど、そのまま台東区内で開業したり工房を開いたりしている人が多いんだよね。そうか、彼らがこんなに街を盛り上げようとしていたら、俺は絶対に一緒に動かないといけない、すぐショップを作ろう!って。

お店の場所を探すところからですよね?
そう。不動産屋に「本気だってわかってるか?」って急かして。
そしたら元はコンビニエンスストアだった物件が、どうやら既存の天井をはがすと中二階がでてくるおもしろい場所だということがわかったので,「もうここしかない」と惚れ込んで決めたのが、2月。それで4月にはオープンするぞ、と。
即断即決と即実行! そしてアッシュコンセプト創立10周年の2012年4月、浅草橋から蔵前へ移ると同時に「KONCNET」ショップをオープンしたわけですね。
だから「KONCENT」ショップは、僕らにとっての地元を盛り上げるために必要な場所でもあります。
アッシュコンセプトとしては、「+d」としてデザイナーを応援することと、デザインプロジェクトとして産地を応援すること、そこにもうひとつ加わった、3つ目のプロジェクトとも言えます。

 

 

使ってくれる人へ直接、届けるために
アッシュコンセプトは、デザイナーと多くのヒット商品を生み出し、企業や産地の人たちといくつものブランドを立ち上げてきました。でも、卸業や小売りまでは手がけていませんでした。「KONCENT」は、その流れを大きく変えた転換点にもなりますね。

これまでは、デザインコンサルティングを請け負っても、完成した商品の売り先に関してはみなさんでがんばれ! と言ってきましたからね。もちろん、取引先を紹介することはありましたが、僕らが間に入って、利益を得て売ることはずっと避けていました。
でも、自分たちの手でつくったものを、自分たちの手で売れなければ、説得力がないんじゃないか、と考えるようになったんです。
僕らのデザインコンサルティングは、「こうやってみれば」という仮定の話ではなく、僕らが経験してきたことを前提に、「こうやってみるといいよ」と提案する姿勢を大切にしています。
それに、「+d」のものづくりでは、実際にユーザーの声や反応を開発に活かしてきたから、今度は自分たちで売るところまで経験して、みんなに伝えたいと思っています。

つまり、他の売場のお手本や実験にもなる。ものづくりにも、お店づくりにも活かせるということでしょうか。やっぱり自分たちで、「こうやったら売れるんじゃないか」、「こんなふうに見せたらうまく商品の魅力が伝わるんじゃないか」と工夫したいよね。ブランドを立ち上げて商品を開発するだけじゃなくて、最終的なお客さんの手に渡るところまでを、自分たちで形にしたい、という気持ちです。

そして、「KONCENT」がある蔵前を盛り上げる役目も果たしたい、と。

街と繋がろうよ、という心は、いつもあります。それは、日本各地の産地を訪ねる時に感じることでもあるんです。例えば、北海道で木工家具が盛んな旭川には、約1年間、毎月通って若い家具職人や企業の担当者を集めて、数時間ずつ話し合いを続けていた時期がありました。
旭山動物園の年間来場者数が上野動物園を超えたということがニュースになった時は、「その人たちに旭川の家具工房を巡ってもらうような仕掛けをつくってみよう」、と主張したり…
そういうことを言い続けているうちに、旭川もおもしろくなってきています。実際に、匠工芸の1階には「KONCENT」ショップが入ったことも画期的ですよ。家具店って、しょっちゅういってずっと眺める場所じゃないでしょ? だけどもし、おもしろいデザインショップがあれば日常的になにか楽しいものがないかな、って足を向ける回数が増えるはずです。
各産地を見つめる目で地元のことも見直してみたからこそ、蔵前が新鮮に映ったのかもしれませんね。

 

産地でものづくりをする人たちには、「地元を盛り上げないといけないよ」、と話していたのに、足元を見たらまず自分がやらなければならないことに気づいたんだよね! それに、増え続ける商品をちゃんと自分たちの手で届けたい、と思ったから。
最終的には多店舗展開したいと考えていますが、全く同じ「KONCENT」ショップが増えていっても、あまり意味がない。
僕らの強みは、小さいけれどパワーがあること。だから、文化度の高い都市に路面店が作れるといいですね。では、街によって全然、違うタイプのお店になる可能性も少なくないですね。そうですね。都市では、人間の生活そのものには差がないけれど、その土地の文化との結びつきや、地域とのつながりは大切にしていきたい。デザイン商品を売るだけじゃなくて、人と人とのつながりから選んでもらえるのがいい。プラットホーム、と呼ぶ表現もあるけれど、もっと日常的に、地元の人たちから「あのおじちゃんが勧めるから買ってみよう」、なんて思ってもらえたら嬉しいね!
新ショップオープンの計画も進んでいると聞きました。

「KONCENT」は日本に限定せず、世界を目指します。具体的に着手している場所は、台北、大阪、藤沢、メルボルン… 他にも、たくさんありますがまだ内緒。
多くの人と一緒に作り上げた商品を、世界各国に届けるのが理想です。リアルショップとウェブショップの両方があれば、遠方の人も直接感じることができるでしょう。コンセントそのもの、“差し込み口”になって、逆に世界中からエネルギーを感じる場所が「KONCENT」でもあります。

 

 

phot_mirei聞き手: 高橋美礼/Mirei Takahashi

デザイナー、デザインジャーナリスト。多領域のデザインに携わりながら、国内外のデザインを考察している。編集、執筆、デザインコンサルティングをおこなう。
主なデザインに「TsunTsun」(宮城壮太郎氏と共同デザイン/アッシュコンセプト「+d」)、「物語がはじまる」(世田谷美術館)、「トーキング・トーキンビ」(東京国立近代美術館)など。共著に「ニッポン・プロダクト」(美術出版社)、「2000万個売れる雑貨のつくり方」(日経BP社)など。多摩美術大学非常勤講師。落語好き。