開発ストーリー :木の浮き箸

2007年2月に誕生し、10年以上にわたり世界各国で販売されている+d 「ウキハシ」。
2021年2月、これまでの樹脂製に加え、ついに「木の浮き箸」が誕生します。

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探し求めた素材と技術

開発当初から、「ウキハシ」のデザイナーである小林幹也(こばやしみきや)さんは、「木製」や「漆塗り」のお箸をいつか製品化したいと考えていました。
しかし「ウキハシ」は食べるためだけではなく、”ていねいに持ち上げる、揃えて置く”など、自然と美しい所作へ導くプロダクト。一般的なお箸とは形状が異なります。
そのため、精巧なデザインを表現し、かつ長く使い続けてもらうためには、木材を加工する高度な技術力はもちろん、素材自体の強度や耐久性が重要なポイントとなります。

そんな素材と技術を探し求めて、約10年。
ついに、木製の「ウキハシ」が実現しました!

今回は、その「木の浮き箸」ができるまでの工程をご紹介します。


1:積み重ねて強くする

「木の浮き箸」の素材は、天然樺を使用した”積層材(せきそうざい)”です。
普段の生活の中では、あまり聞きなれない材料かもしれません。

1本の木を積層材にするためには、まず、大根のかつら剥きのように木材を回転させながら刃をあて、薄い板状にします。それを1枚1枚積み重ね、高温高圧で圧縮。こうすることで、通常の木材と比べ2~3倍の強度を持つ素材が生まれます。

この強度のある”積層材”により、ウキハシの精巧で反りのない形状を製造することができました。
ちなみに、浮箸1本の18mmの幅に、なんと約30枚もの樺材が積み重ねられています。

*積層材(イメージ)。薄い板状にした木材を積み重ねることで、強度のある木材が生まれる。

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また、一般的な合板(例:ベニヤ材)などは、木目を交互に重ねるのに対し、浮き箸で採用している積層材は、目を同じ方向に揃えて重ねています。このことが、製品になった時に美しい木目を楽しむことができる仕上がりに、つながっています。


*木の浮き箸の木目。上面の積み重ねられた美しい木目は、ひとつとして同じものがないのも自然素材ならではの特徴。

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2
:手作業で8面体を形づくる

お箸の「箸先」に対して、反対側は「頭(あたま)」と呼ばれます。
一般的なお箸の頭の形は、円や三角・四角などさまざまなですが、箸先までは均一の”錐体(すいたい)”です。

一方「ウキハシ」は、計算された絶妙な角度を持つデザインのため、
“箸先”、”使い代 (つかいしろ)“、”持ち代 (もちしろ)“、”頭①”、”頭②”、”上面”、”側面(左右)” の8面体。


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そのため、1本あたり少なくとも8回、1膳で16回のカット作業を行い、積層した木材を「ウキハシ」の形に成形していきます。
さらに、手に持った時の触り心地を良くするため、角に丸みを持たせる“面取り
処理“など、1本1本丁寧にすべて手作業で行われます。

*角に適度な丸みを持たせることで、触り心地がよくなる。


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3
:熱で水分を飛ばし安定させる

積層材にかぎらず、製材した木材製品は、元々の原木に含まれていた水分がたくさん残っている“生材(なまざい)”という状態のままでは、使っているうちに反りや割れなどが起こる要因となります。そのため、木材製品は乾燥をさせる必要があります。

木材の性質や用途により乾燥の度合いは変わりますが、「木の浮き箸」の場合は、”天然乾燥”と機械を使用した”人工乾燥”を組み合わせ、合計3回。念入りに行っています。

余分な水分を飛ばし製品(木材)の状態を安定化させるとともに、熱処理を行うことで食品衛生法に適した材料にする重要な工程でもあります。

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4
:植物性由来の天然ワックスで磨きをかける

仕上げは、飴玉などにも使用されている「カルナウバロウ」という植物性由来の天然ワックスを1本1本手作業で塗布し、磨きをかけていきます。
この表面加工により、積層により生まれた美しい木目や風合いを生かしつつ、ナチュラルな印象の光沢が生まれます。


*植物性由来の天然ワックスにより美しい木目と共に艶も楽しめる仕上がりに(左:仕上げ前 右:仕上げ後)。

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5
:扇状に広げて相性を見極める

最後の検品も、もちろん手作業です。

1本1本ひび割れや反り等の有無を丁寧に確認したのち、複数本の箸を扇状に広げて持ちます。
熟練の技により、色合いや木目の印象が近い、相性の良いペア(1膳)が選ばれ、「木の浮き箸」の完成です。


*扇状に広げた検品の様子(イメージ)。1本1本の個性を見極める繊細な作業が行われている。

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いかがでしたでしょうか。

今回の材料(積層材)は、強度や耐久性はもちろん、安定的に供給できることや、環境負担を軽減できることも考え、採用されています。

食べるためだけではなく、”ていねいに持ち上げる、揃えて置く”など、自然と美しい所作へ導くプロダクトを作りたいというデザイナーの想いを形にすべく、多くの人々の技や知恵が積み重ねられた「木の浮き箸」。
デザインから製品化に至るまでのバックグラウンドを知ると、あらたな魅力を感じることができそうですね。

ぜひ、長く大事にお使いいただき、また、大切な方への贈り物として選んでいただけると嬉しいです。

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*「ウキハシ」のデザイナー・小林幹也さんへのインタビューはこちら。
「ウキハシ」誕生のきっかけや、デザインに込めた想いをご覧いただけます。