つくり手にとってのバリアフリーを実現する「equalto」

日本にはいま、就労継続支援事業所と呼ばれる障がい者施設が約9000ヶ所あり、食品や雑貨などさまざまな商品を生産し、販売しています。しかし、ていねいな作業によって真心のこもったものづくりをしているにも関わらず、つくり手である彼らの月額平均賃金は14,000円*という、経済的な自立とはほど遠い状況におかれているのです。2014年に誕生したブランド「equalto(イクォルト)」は、障がい者の社会参加と自立支援のために、就労支援施設での生産を前提に生まれました。

*出典:平成24年度厚生労働省調査就労継続支援B型事業所

interviewMirei Takahashi

 

 デザインコンペからのスタート

「イクォルト」は最初、デザインコンペティションから始まったブランドですね。2013年に「アートクラフトデザインアワード」という名前のコンペとして作品を募集して、名児耶さんはその審査員でいらっしゃいました。

アッシュコンセプト代表/デザインディレクター 名児耶秀美 コンペやその後のものづくりを進めるオーガナイザーとして共催していたアクセンチュアからある日突然、コンタクトがあってね。日本では障がいを持っている人たちが働く事業所は賃金が低いという社会的な問題があるから、アクセンチュアが積極的に行っている社会貢献活動の一環として、それを改善する仕組みができないか。具体的には、デザイナーが関わって価値あるものが生み出せれば、賃金をあげることをできるんじゃないか、という趣旨でした。 それを聞いたときにすごくいい取り組みだと思ったよ。アッシュのコンセプト「デザインで世の中を元気にする」にぴったりだ!ってね。だから審査員を引き受けました。僕の他には、プロダクトデザイナーの奥山清行さん、ユナイテッドアローズの沼田真親さん、オールアバウトストアスタイルの柳沼周子さん。そこに事業所の方々も加わった審査会を開きました。

第1回目のコンペは、東日本大震災で被災した事業所が中心になっていて、作品の応募総数は382点。私は審査会終了後、最優秀賞が決定してから取材させていただきましたが、事業所のものづくりというよりもデザインを審査するコンペとして実施されたのが印象的でした。

初回の最優秀賞が「Nuinui (ヌイヌイ) 」。それから優秀賞の「Pos (ポス) 」、採用賞の「Braille (ブライユ)  」、「Red line (レッドライン)  」、「Wavy (ウェービー) 」。5作品を商品化しました。実は、審査している段階から少し心配ではあったんだよね、コンサルティングの大手企業と事業所とデザイナーだけで本当に売れる商品をつくることができるのかどうか……。生産者である事業所があって、デザインが整えば自動的に動き出す訳じゃないでしょ。 案の定、暗礁に乗り上げてしまったところで、アッシュコンセプトに手伝ってほしいと依頼があり、僕らも加わるようになりました。

Nuinui
pos
Braille
Red line
Wavy

 

 

商品化第1弾 「 Nuinui (ヌイヌイ) 」、ブランド化へ

最初の商品「ヌイヌイ」は事業所の利用者さんたちがひとつひとつ、手で刺繍したバッヂで、つくり手の個性が表れる色や形が特徴的です。審査のとき、名児耶さんはこのデザイン提案をどのように見ていましたか?

新しさというよりも、事業所の人たちが楽しんでつくれそうだと直感したんだよね。障がいを持つ人たちの施設だからではなく、特徴をもった生産者だから最適だろう、ってね。コンペで最優秀賞になるデザインはアイデアが優れているだけではなくて、アワードの意味を捉えて感じさせる存在じゃなきゃいけないと思う。その点でも「ヌイヌイ」は、グランプリに強く推しました。 事業所で「作らせる」、じゃダメ。「ヌイヌイ」はある程度自由に、つくる人たちの感性が生かせるデザインです。一般的には、長所と呼べない個性を持っている人たちだからこそ、味わい深い仕上がりになるんです。

刺繍のステッチは同じでも、どれひとつ同じではないのが素敵ですよね。発売されてすぐに私も購入しました。布製のバッグに留めるとかわいいんです。 コンペ当時にはなかったイクォルト、というブランドはどのタイミングで誕生したのでしょうか?

第1回目のデザインコンペが終わって、商品化を手伝うことになったときにブランド化しました。みんな平等なんだという思いから、「イコール・トゥ」、つまり誰もが平等に繋がっていくイメージで名付けました。

それでコンペも2度目の開催からは「イクォルトアワード」になったんですね。NPO法人のディーセントワーク・ラボが運営に加わり、参加する事業所もだいぶ変わりました。

ディーセントワーク・ラボはこれまでにも「テミルプロジェクト」といって、プロのパティシエが監修したお菓子を事業所で製造して販売するといった経験が豊富だったので、いまはイクォルトブランドの開発にも加わるし、コンペに参加する事業所との橋渡し役も務めています。

ちょうどその頃から私も部分的に関わらせていただいてきました。コンペに参加する事業所を一緒に訪問して、作業者のみなさんに会ったり、得意な作業を見せてもらったり……。事業所ごとに得意なものが全く違うんですよね。ニット編みが得意なところもあれば、木工に専念しているところもある。それは一般的な製造工場と近い特性でもありますが、イクォルトアワードに応募しようと考えるデザイナーにはきっと、刺激になるでしょうね。

真っ当なデザイナーは、単にものをつくって儲けるばかりを目指すんじゃなくて、自分のデザインがどうしたら世の中の役に立つかを常に意識しています。社会にプラスの影響を与えたいと考えているデザイナーがとてもたくさんいることも、実感しています。

 

イクォルトは大きなチャレンジのひとつ

2014 年に開催した際には166点の応募があり、最優秀賞を含めて7作品が入賞、すべて商品化されました。こうして見ると、応募作品の印象が変わらずに活かされて商品になったのがわかります。特に最優秀賞のパンケース「Fitto(フィット)」は、木製の素朴な存在感がそのまま形になりましたね。

いいでしょう、これ(笑)! 今までになかった商品だよね。一般的な袋入り食パンを検討してサイズを決めたり、袋を支える部分の切り込みを工夫したり、細かい部分はかなり調整しましたよ。

DSC_0811_02

自慢したいのは、ケース上部の切り込み。機能的に一番大切な、この部分はひとつずつ、糸鋸を使って手作業で加工したもの。ブランド名は、事業所が新たに導入した、高さがある状態でも加工できるレーザー加工機で、組み終わってから刻印しています。数を多くつくれないから、少しずつでも、着実にね。

Fitto

phot02

受賞作品以外からも商品化をするものがある、とチラッと聞いたのですが教えていただけますか?

そう、馬の形の「メッセージ絵馬」を開発中です。コンセントとビームスでだけ販売する、オリジナルイクォルト商品。神社にも奉納できる絵馬で、自分の目標や心意気を書いてもいいし、誰かに届けたいメッセージを伝えることもできる絵馬です。絵馬って昔から日本にあるけれど、もっとカジュアルにできるんじゃないかというアイデアが響いたので、ビームスと一緒に商品化しているところ。2016年1月からコンセントとビームスの店頭に並ぶ予定です。

Ema メッセージ絵馬
Ema

今年、イクォルトアワードを開催しなかったのは、なぜでしょう?

コンペは毎年ではなく2年か3年に1度、確実に商品が作れる体制で開催すべきだからね。きちんとした商品を完成させるために、事業所でのものづくりは少しずつ、時間をかけて進める必要があるから。毎年いくつもアイデアだけ募らず、大切に進めていくつもりです。

イクォルトはアッシュコンセプトにとって、特別な取り組みになりそうですね。

その通り。オリジナルブランドの+dと同じように大事にしています。世の中に浸透するように続けていきたいし、なにより、ひとつのブランドとして成功させたい。 このブランドは、デザインが社会的な問題を解決できるかどうか、チャレンジだよね。イクォルトがどういうふうに事業として成立する状態に持っていけるかがチャレンジだし、そういうバックグラウンドを持った商品を多くの人が応援してくれるか。 でも、最初からバックボーンを知っていて買うというよりも、気に入って買ったら事業所で作られたものだったというふうになればいいね。

名児耶さんは以前から、そうおっしゃっていましたね。就労継続支援事業所をアピールするのではなく、まず商品として “もの”が素敵じゃないといけないって。

それでいてなおかつ、事業所じゃなきゃつくれないものを世の中に送り出したいと思っています。


 

 

デザインの力で、障がい者のものづくりを応援したい。 つくる人はその個性を活かしてものをつくります。つかう人はその個性に合ったものをつかいます。全ての人の個性が平等に輝ける社会のために。 “equalto [ イクォルト]”はものを通じて、つくる人とつかう人をつなぎます。 http://www.equalto.or.jp/


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phot_mirei聞き手: 高橋美礼/Mirei Takahashi

デザイナー、デザインジャーナリスト。多領域のデザインに携わりながら、国内外のデザインを考察している。編集、執筆、デザインコンサルティングをおこなう。 主なデザインに「TsunTsun」(宮城壮太郎氏と共同デザイン/アッシュコンセプト「+d」)、「物語がはじまる」(世田谷美術館)、「トーキング・トーキンビ」(東京国立近代美術館)など。共著に「ニッポン・プロダクト」(美術出版社)、「2000万個売れる雑貨のつくり方」(日経BP社)など。多摩美術大学非常勤講師。落語好き。