“愛”こそが支持される理由。多くの人が心を病む今の時代に必要とされるデザインとは?

『デザインプロデューサー』『文筆家』といった肩書を持ちながら、『ギャラリー田村ジョー』の運営も手がけ、日本が世界に誇るインテリアデザイナー、故・倉俣史朗氏の功績を後世へと伝えるプロジェクトを進めるなど、多岐にわたる活動を展開するジョースズキさん。

そんなジョースズキさんとアッシュコンセプト代表・名児耶の付き合いは20年余。今回の対談は、ジョーさんならではの鋭い視点で、『+d(プラスディー)』というブランドを考察すると同時に、コロナ禍の中でこれまでと同じ方法では立ち行かなくなった『見本市ビジネス』への提言など、デザインに関わるすべての人に向けた強いメッセージと示唆に富んだ内容となりました。

緊急事態宣言が出される前のとある夕方、行きつけのお蕎麦屋さんへと向かう前に行われた(!!)2人の対談は、和やかな空気の中で進んでいきます。

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デザインは、愛。20年が経ってなお変わらぬ想い。

名児耶:
僕たち二人が出会ったのは、いつのことでしたっけ?

ジョースズキさん(以下、ジョーさん):
もう20年近く前になりますかね。名児耶さんがアッシュコンセプトを立ち上げたばかりの頃だと思いますよ。
とある媒体で『日本を代表するクリエイターを紹介する』みたいな企画があって、その中で取材をさせてもらったのが最初だったと思います。

名児耶:
そうでしたっけ? もう覚えてないや(笑)

ジョーさん:
何かの雑誌で、『アニマルラバーバンド』を見て「これはすごいな」と感じ、絶対に話を聞かないとと思ったものです。当時のデザイン業界にはイームズのブームがあったり、レトロなものやゴージャスなものが流行ったりしていたんだけど、そのどれとも発想がまったく違っていて、とてもポップで、クスッと笑えるようなものでした。そういったプロダクトって他にはあまりなかったんですよね。そこから関係性がスタートして、その後もずっと製品を追いながら色々なメディアで記事を書いてきました。
ちなみに僕は海外に取材に行く時は『アニマルラバーバンド』をブレスレットのように手首につけて行きます。そしてそれを出会った人にプレゼントして、渡された人が「わ!」って驚いている瞬間を撮影することもあるんですよ。簡単に笑顔の瞬間が撮れるから(笑)

名児耶:
ありがとうございます! ジョーさんとは本当に長い付き合いで、僕はとにかく面白い人だと思っています。とても気さくでデザインに関する知識がすごい。こういう人がメディアで活躍してくれると、我々の製品のこともきちんと伝わるなと思っています。

ジョーさん:
僕は海外のデザイナーと一緒にものづくりをしたり、たくさんのインテリアショップと協力してイベントをしてきた経験があるので、人を集めることやモノを売ることの難しさは分かってきたつもりでいます。文筆以外のそうした活動が、発言の裏付けになっているかもしれないです。

 

 

旧知の仲である二人の対談は、冒頭から大盛り上がり。


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名児耶:
じゃあ知り合ったのは+dに『アニマルラバーバンド』しか製品がなかった頃なんだ。

ジョーさん:
いや『スプラッシュ』もあったと思います。その2つをつくっている会社だったから、余計に惹かれたのだと思います。というのも『アニマルラバーバンド』だけだったら、単なる“おもしろグッズ”というか“アイデアグッズ”くらいの印象で終わっている可能性もありますよね。そして『アニマルラバーバンド』が最初に売れたのがMoMAだったっていう普通では考えられないようなお話も聞いて。

名児耶:
そうそう。製品が出来上がった後、『アニマルラバーバンド』のデザイナーであるパスキーデザインの2人と「さあ、これをどこで売ろうか」っていう話をしていたら「ニューヨークのMoMAは無理ですか?」なんて言われて。「まだ会社を作ったばかりで、そんなつながりはないのに、無茶を言うなよ!」とか思ったけどね(笑)。結果的には僕の知人のつながりから声をかけることができて。「すごく面白い製品なんだ」ってことを伝えると「ナゴヤが言うならいいよ!」って言ってくれたんです。それをニューヨークまで持っていった時には「輪ゴムを売りたくて飛行機に乗ってきたの?」とか言われて(笑)。でもその人も「すごく可愛いから、すぐにやりましょう!」ってMoMAに置いてくれることになったんだ。

ジョーさん:
すごい話ですよね(笑)。どんどん成長していく時期特有のドキドキするお話を聞いて、とても刺激を受けてきました。


世界中の誰に渡しても”驚きと喜び”を与えられるジョーさんが話す『アニマルラバーバンド

 

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名児耶:

“デザイン”っていう共通点の中で知り合ってから、僕はジョーさんのモノゴトに対する見方の面白さや知識の深さをすごくリスペクトするようになりました。それでいてとてもフランクに話ができるからすごく好きなんです。それにアッシュコンセプトを立ち上げたばかりの時から、展示会に有名人を連れてきてくれることもありました。ずっと応援してもらっていますね。

ジョーさん:
そうでしたね。そうやって仕事を通して知り合った後、だんだんプライベートでもお付き合いさせていただくようになりました。今日もこの収録の後、いつものお蕎麦屋へ行く予定ですからね(笑)。ちなみに会社をつくって今年で何年になりますか?

名児耶:
実は来年(2022年)、二十歳になるんです。

ジョーさん:
すごい! いま何ヵ国で製品を売っているんですか?

名児耶:
それがね、35ヵ国に広がったところまでは把握しているんだけど、今は正確には分からない。

ジョーさん:
そうか。僕が出会った時は会社に3〜4人しかいなかったのに、本当にすごいなぁ。確かに当時とは比べものにならないくらい企業としての規模や社会的な責任も大きくなっているけど、その中で名児耶さんは一貫して「デザインは愛だ」っておっしゃっていますよね。「それはちょっと言い過ぎじゃない?」って思うこともあったけど(笑)

名児耶:
アハハハ! でもね、僕は+dの製品を使うのは、自分が本当に好きな人だっていう風に考えているんです。だとしたらデザインをする時に、その人のことを徹底的に考えるし「絶対に喜ばそう」とか「楽しんでもらおう」って思うでしょ? それって僕は愛だと思うんだ。

ジョーさん:
なるほど。時には“ツンデレ”っぽいものがあってもいいかなって思うけど(笑)

名児耶:
それもありますね。愛って「なんでも言う通りにいたします」っていうことじゃないから。相手のことを思うからこそ、時にはすこし冷たくすることもあるし、肩透かしを食らうようなこともあるよね。

ジョーさん:
たしかに、いろいろな愛がありますね。その証拠に+dには「あったらいいな」という便利なものから、プレゼントに使いたくなるようなもの、さらに一見しただけでは何に使うのかわからないけど面白い、みたいなものまで非常に幅広い製品があって、そこが魅力のひとつだと思っています。



+d初期の代表作のひとつ『スプラッシュ』は今でも人気のあるアイテム。

 

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狙いは自由な創造の場の提供。+dは『メンフィス』だった!?

ジョーさん:
1980年代、デザイン業界に『メンフィス』というムーブメントが起こりました。すでに世界的な評価を受けていたイタリアのデザイナー、エットレ・ソットサスが、若手の建築家やデザイナーを集めて、奇抜でカラフルなプロダクトをたくさん発表したことで、非常に大きな注目を浴びると同時に、多くの批判も受けることとなるわけです。

名児耶:
そうですね。本来デザインっていうのは「LESS IS MORE」という言葉に象徴されるように、削り取って、削り取って、その結果うまれるものであるべきなんだけど、そういったシンプルで簡素なものだと、あまり注目してもらえないという課題があった。そこでデザインというものをもっとアピールして、たくさんの人に知ってもらうための運動がメンフィスであるというのが僕の認識です。

ジョーさん:
それが少々予想外な面があって。当時の僕は、歴史の文脈を知っている訳ではなかったので、ソットサスっていう変なおじさんが出てきて、デザイン業界を引っ掻き回したっていう印象を持っていました。でも調べてみると実はそうではなくて、もともとソットサスという人はデザイン史に残るようなタイプライターやオフィスチェアなど、合理的できちんと売れるものをつくり出すのが上手い人だったんですよね。メンフィスをやるまではむしろそういう文脈で知られていたようです。そういう人たちが「期間限定で普段はできないことをやろう!」って仲間たちに声をかけて、わざとおバカなことをやったのがメンフィスだった。つまりずっと真面目にデザインをやっていた人たちが「このままありきたりのものだけデザインしていたら、創造性が失われてしまう」っていう思いから始めた運動だったんです。

名児耶:
僕が+dをつくったのも「もっとデザイナーに注目を集めたい」っていう思いがあったからなんです。よくよく考えたらメンフィスと似ているなぁ……。

ジョーさん:
そう! 今日はそれを言いたいと思っていて。+dがやっていることって、メンフィスと似ているんですよ。違うのはメンフィスの場合はソットサスが中心となり、彼が旗を振ることで戦略的に広がっていった部分があるけど、+dはそうではない。名児耶さんがすべてを計画的に進めているわけではなくて、デザイナーそれぞれが「+dって面白いよね」って自発的に集まって来ている感じ。

名児耶:
僕は昔から無計画な男なんで(笑)

ジョーさん:
いやいや、それは違います。誤解を恐れずに言えば、ある意味、神に選ばれているんですよ。それに本人だけが気づいていないっていうか。そういう人って時々いるんですよね。

名児耶:
そんなこと言ってもらえるなんて、嬉しい!

ジョーさん:
そんな感じがしています。僕は倉俣史朗の家具などを復刻しているので研究をしているのですが、彼も「すべて計画的なのはダメ」「夢で見たり、ふと天からアイデアが降りてくるものがあって、それをカタチにした時に、本当に動き始める」といったニュアンスのことを話しています。やっぱり頭で考え過ぎるとダメ。だから名児耶さんも自分では「無計画」とおっしゃっているけど、逆にそれだから成功したんじゃないかな。

名児耶:
ありがとうございます。あの時代にメンフィスに参加した人たちと同じように、今の時代のデザイナーたちにも「こんなものがつくりたい!」っていう思いがすごく溜まっていて、にもかかわらず、それをつくって売ってくれる会社が当時はなかったんですよね。だから「君たちがつくりたいものを、僕がつくるよ」っていう思いでアッシュコンセプト、そして+dを立ち上げました。ここで大事なのは、つくるのは“アート作品”ではないということ。やはりデザインっていうのは“ビジネスの上にあるべき”だと僕は思っているから、デザイナーの作品を一緒に製品にしていく感覚でずっとやってきました。逆にアートはビジネスとは関係なく存在してほしいものでもあるからね。

ジョーさん:
デザイナーたちが本当につくりたいと思っているものが製品化されているってことは重要ですよね。今、自分で働いている会社ではできないデザインは多いはずですから。

名児耶:
そうなんです。特にインハウスデザイナーって、自分がつくりたいものをデザインしているわけではない場合が多くて。例えば自動車メーカーには、ひたすらハンドルのデザインだけをしている、みたいな人もいます。もちろん自分が望んでそれをやっている人もいるんだろうけど、そうではない人もたくさんいるわけで。そんな中で「あそこだったら、自分が本当につくりたいものを扱ってくれるんじゃないか」って感じで、たくさんのデザイナーたちがプラスディーに飛んできてくれます。つまりメンフィスと同じで、商業的なきちんとしたデザインができる人たちが、会社やクライアントからのオーダーではなくて、自分がつくりたいものを持ってきてくれているってことですね。だから+dって、いい意味で“めちゃくちゃ”な製品ラインナップになっています。



ほら、この通り。確かにラインナップが”めちゃくちゃ”ですね。

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ジョーさん:

だからそれが逆に、不思議なパワーになっているんだと思うんです。ところで今年(2021年)は、倉俣史朗没後30年ということもあって、ワイングラスのカタチをした照明『SAMBA-M(サンバM)』を復刻することになりました。
倉俣さんは、これで監修した展覧会のオープニングパーティーの来場者を驚かせたらしいですよ。

名児耶:
僕は息子である倉俣一朗さんと親交があって、彼から聞いた話なんですが、倉俣さんってとても楽しい人だったようですよね。冗談が大好きで。作品を見ていると、もっとピリピリした鋭利な感じの人なのかなって思っていたけど。

ジョーさん:
そういう面もあったみたいですね。そうした面も含め、共同運営している『ギャラリー田村ジョー』で、彼の功績を次の世代に伝えていけたらよいなと思っています。


ギャラリー田村ジョーの企画で復刻された『SAMBA-M』。2021年7月には一般販売も開始されるそうです。

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名児耶:

グラスといえば、僕たちも『Sekiei kampai glass』を発表しました。これ、飲むためのグラスじゃないんですよ。

ジョーさん:
飲むためじゃない??

名児耶:
そう。乾杯するためのものなんです。ほら、カンパイ!

 

長く響き渡る『Sekiei kampai glass』の乾杯音に、対談現場にいた全員が感動していました。

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ジョーさん:
わっ、音がずっと響いてる! これ、すごい!! ハンドベルみたいですね。

名児耶:
いいでしょ? でもね、値段が高いんですよね。久しぶりに、なかなか売るのが難しいものをつくったなと思って(笑)

ジョーさん:
え? おいくらなんですか?? いや、怖いから聞くのはやめておこうかな(笑)


高い純度と透明性をもつ石英ガラスが澄み切った音色を長く奏でる『Sekiei kampai glass


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展示会ができない苦難の時代に見出した活路とは?

ジョーさん:
世界中のデザイン業界がコロナ禍の打撃を受けて1年が経ち、見本市ビジネスにある種の限界が見えてきたような気がします。今後どのようにブランドや製品、デザイナーを広めていくべきか、名児耶さんはどうお考えですか?

名児耶:
実はコロナ禍の前から、既存の展示会のカタチには疑問を抱いていました。というのも会社をつくって20年も経つと、来てくれるお客さんもだいたい決まってきちゃうんですよね。

ジョーさん:
それはありますね。それにイベントブースに来てくれたからといって、製品をどれくらい見てくれているのかっていう問題もあります。挨拶をして、少し話しをして、資料やサンプルをもらっておしまいとか。

名児耶:
そうそう。それと大きな展示会では、自分たちのブースに来てくれたメディアのプレス担当や店舗の営業マンと話せたとしても、ほんの10分程度。他のブースにも行きたくて会場に来ているわけだから仕方ないんだけどね。

ジョーさん:
確かにそうですね。僕らもできるだけたくさんのブースを見たいから、一つの場所にいる時間ってどうしても少なくなってしまう。で、いろいろと回った後で、印象に残っているのは数えるくらいなんですよ。短期間に相当数を見るので、すぐ忘れてしまって(泣)。長い期間準備してきた出展者の方々には、本当に申し訳ないと思うものです。

名児耶:
そんな風に感じていたところにコロナ禍が来て、展示会ができなくなっちゃって。だからその代わりに少人数を招いての展示会をやることにしました。すると来てくれた人は、みんな2時間くらい会場にいてくれて、話もゆっくりできるわけです。それはすごく良かったんだけど、狭い会場でやることになるから「この時間はあなたしか入れません」っていうカタチをとらざるを得ない。そうなると、お招きした全員が見終わるのに2ヶ月近くかかっちゃった。これはこれで大問題です。

ジョーさん:
う〜ん、なるほど……。問題はあるけれど、今後の流れとして大きな展示会ではなくて、“マイ展示会”を中心にしていくってことですかね。

名児耶:
そうなんだけど、その一方でブランドを立ち上げたばかりの人なんかは、まだ固定客がいません。そういう人にとっては、やっぱり大きな見本市会場での展示会ってすごく重要なんですよね。

ジョーさん:
それはプレスの立場でも同じです。プレス向けの発表会の場合、メーカーからの公式な話ももちろん大事なんですけど、その後に担当者や開発者に何気ない質問をすることで得られた小話なんかが、記事を書く場合、結構重要なんですよね。また会場にいる知り合いと意見交換をして「あ、たしかにそういう面もあるね」「じゃあもう一度、その辺りを担当者に聞いてみようか」みたいな行程があるからこそ、製品のことが深堀りできる。最近はZOOMとかを使ったオンラインでの発表会がありますけど、あれだとそういうことが一切できないし、質問もなかなかしにくくて。製品のことを深く知れないんです。なので、ある程度の人数が集まる形の発表会は重要だと思っています。

名児耶:
うん。オンラインもメリットとデメリットがあるから。本当に難しいよね。


絵が描かれていたり、加飾されていたり。ジョーさんも興味津々です。

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名児耶:
いま僕たちがやっている『マスクノイエ』という製品のチャリティーキャンペーンのやり方は、展示会が難しくなった今の時代に対するひとつの答えでもあります。具体的にはクリエイターのみなさんに協力してもらって「こういうものがあって便利だよ」って紹介してもらいながら、かつ「こんなふうにアレンジすると楽しいよ」って感じで作品をつくってもらって、それぞれのSNSでシェアしてもらうという方法をとりました。みなさん、多くのフォロワーがいる方なので。

ジョーさん:
おお、なるほど。

名児耶:
展示会を通して知ってもらうこともできないし、広告によるアプローチだと信用してくれないユーザーも増えています。だからこそ僕たちの思いに共感してくれるクリエイターたちに製品をお渡しして、一緒に遊んでもらうのが一番いいんじゃないかなと思って。

ジョーさん:
そもそも『マスクノイエ』自体がカスタマイズするのに向いている製品ですもんね。

名児耶:
そうそう。だけど一般のユーザーにはどういう風にやったらいいかが分かりにくいから、まずはプロの人たちに絵を描いてもらったり、得意な素材で加飾してもらったりしました。それを真似するだけで誰もがクリエイターになれるわけです。さらに「#マスクノイエ」っていうハッシュタグをつけてSNSにポストしてもらえれば、その投稿数に応じた額を医療従事者に寄付することにしました。そういう仕組みをつくることで、展示会ができない中、どうやって周知し、販売へとつなげるかっていうスタイルのトライアルをしています。「展示会でバイヤーに伝える」っていう今までの方法ではなくて、直接ユーザーに伝えるために情報伝達のカタチを模索した結果ですね。これからどんな盛り上がりを見せてくれるか、とても楽しみなんですよね。

ジョーさん:
ということは、展示会での発表前に、販売したってことですか?

名児耶:
うん。いつもと順番を逆にして、オンラインショップと直営店で一般発売を前にテスト販売を行いました。コロナ禍のおかげで考え方が柔軟になって、今まで当たり前だと思っていたことを変えちゃおうっていう気持ちになっているのかな。

ジョーさん:
確かに今がいい機会ですよね。それに広告を出したり、メディアにPRしてもらったりするより、SNSで拡散しようっていうのも時代に合っていると思います。今後の展開が楽しみですね。ただ、言い難いけれど心配なことがあって。僕、すごく不器用なんで、この『マスクノイエ』は、マスクをかけようとしたら、かなりの確率で倒しちゃうんじゃないかと。+dの『コビト』も、コップを置こうとすると倒してばかりで、サヨウナラになってしまいました(笑)



大ヒット製品、洗面所で活躍する『コビト』。でも不器用な人にはあんまりむいていない!?


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名児耶:

あ、ちょうど改善したものが出るんですよ。確かに『コビト』はね、大ヒット製品なんだけど、僕もよく倒してイライラしてたから(笑)。5月に販売されたこいつは最高ですよ。

ジョーさん:
なるほど。これは絶対に倒れないですね。サイズも少し小さくなって使いやすさがアップしてる!

名児耶:
そうなんです。うがいをするのにそれほど水の量はいらないから。洗面所も狭いところが多いし、倒れないだけじゃなくて小さくしました。



水とミルクが溢れている!? 寝ぼけた状態で見ると思わず『Oh!!』って言っちゃうかも。

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ジョーさん:
すでにある製品に改善を加えながらつくり直しているのも、言い換えれば“愛”かもしれませんね。+dの製品って、こういう考え方の製品づくりは、これからの時代、より支持されていくんじゃないかな。

名児耶:
これの製品名は『Oh!!』っていうの。液体がこぼれているように見えるから、ビックリして「オオ!」って(笑)。
水やミルクがこぼれているように見えるので、サブタイトルが『覆水盆に返らず』(No use crying over spilt milk)(笑)



既存製品の問題点を改善していくのも”愛”だとジョーさんは語ります。

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ジョーさん:
コロナ禍の中でも健康的な生活を送るためには、もちろんワクチンやマスクも大事だけど、免疫力を上げるのが大切になると思います。つまり重要なのは、たくさん笑って日々を楽しく過ごすということ。そう考えたら、真面目なプロダクトも必要だけど、ちょっと笑えるものやおバカに感じるものこそが今の時代は必要なんですよね。

名児耶:
うん。実際に今って本当に多くの人が心を病んでいるからね。

ジョーさん:
それは間違いないです。そんな時代に必要なのは、便利さやオシャレさだけではなく、楽しさなんだと思います。『カオマル』なんて最高ですよね(笑)。+dには今後もそういった楽しい製品を期待していますよ。

名児耶:
ありがとうございます。+dっていうのは、コウノトリが赤ちゃんを運んでくれるように、デザイナーと僕たちが一緒に動くことで成り立っているブランドです。それで世の中を楽しくできれば、本当に最高ですね。


楽しさが詰まった『カオマル』は、今の時代に求められるデザインかもしれません。

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対談のお相手:ジョースズキ/Joe Suzuki
デザインプロデューサー、文筆家。デザイン、建築、アートの分野を中心に、イベント開催や執筆などを行う。NY、パリ、ロンドンなど海外生活は通算で10年余で、国際的な機関投資家からの転身。海外の著名なデザイナーや社長にインタビューを行った著書『名作家具のヒミツ』は、インテリア界のベストセラーに。運営するギャラリー田村ジョーで、倉俣史朗の家具・照明の復刻などを行っている。雑誌『ENGINE』でのお宅訪問の連載は人気企画。https://engineweb.jp/series/list/mycar-myhouse