開発episode:グリーンピン [+d]

会議中の出来事から、それは始まった・・・・
突然のドアベルの音。その時、ミーティングルームにはピリッとした緊張感が立ち込めていた。弊社で毎週行われる製品会議のまっ最中だったからだ。開発途中の製品について、進行状況や展開などをあーでもない、こーでもないと話し合っていたのだ。皆おのずと力が入り、つい熱がこもってしまうのだ。
「なんだよ?誰だろう・・・。」アポイントは入っていなかったはずだった。
扉を空けると、そこには若い男性と女性が立っていた。
「こんにちは。どういったご用件でしょうか?」
「アー、ハロー?イズ ショップ ヒア?」
「何ですか?」
同じアジア系なので一見わからなかったが、彼らは韓国人だったのだ。前述の通り白熱した話し合いの途中だったので、拍子抜けしてしまったが、よくよく聞いてみるとカタコトの英語と日本語でデザインを提案したいと言う。見るとスーツケースと大きなリュック、片手に地図を持っていた。一生懸命探して来てくれたのだろう。
「せっかく来てくれたのだし・・・。」2人に挨拶をし、会議中であることを伝えると、あとの応対をマーケティングの海外担当者に頼んで会議に戻った。しばらくすると、そのスタッフはニコニコしながらミーティングルームに戻ってきて、皆の前でぱっと手を開いてみせた。

「かわいい!」思わず声があがり、ピリッとした会議中の空気が和らいだ。
そこには、新芽の形をしたプッシュピンの試作があったのだ。
すぐさま連絡先をもらい、開発スタッフにコンタクトをとるように指示をした。

その時期、ちょうど台東区の展示会場でてつそん(http://www.tetsuson.org/)が行われており、2人は出展のために来日していた韓国のデザイン学校の学生だった。
近くにアッシュコンセプトの会社があることを調べてわかった2人は、無謀にもノーアポイントで飛び込んできたのであった。しかし、人生は行動した人の勝利である。会議中ではあったものの、ちょっと会議を中断し、逢った人の手の中に素晴らしいデザインが存在して商品化が動き出したのである。その後のコミュニケーションは、前向きな学生らしく、韓国語をインターネットの翻訳サイトで日本語にしたメールを送ってくれていた。我々の日本語もサイトで韓国語に訳してチェックをしていただいたようであった。皆さんもお気づきだろうが・・・・ちょっと変わった変換が、とても楽しいコミュニケーションであった。

ニンジャピンを作っていただいている協力工場も見るなり喜んで、試作から本生産までどんどん前向きに進めていっていただけた。良いデザインは、皆を味方にする力があるのだろう。

デビューはビックサイトのインテリアライフスタイルショーで、入って真正面のアトリウムの展開であったが、その一番前に1m四方の台に千本以上のグリーンピンを刺して飾ったところ、見る人すべてから「かわいい!」と心の底から湧き出てくる声を聴くことができた。そして、不思議なことに皆が、抜いては刺しなおし・・・・どんどん、千本の表情が変化をしていく・・・・

「これは、単なる画鋲ではない! たった5百円で買えるアートであった。」

デザイナーその後、日経主催の韓国のデザイナーのためのセミナーに、2人は私の講演を聞きに来てくれた。韓国のデザイナーがいっぱいの中で、彼との出会いを話し、皆の前で感謝状を贈らせていただけた。
さぁ、これからは地球企業を目指して、世界のデザイナーと世界でモノを作り、今まで以上に世界へと販売していこう。キーワードは、ジャパンクオリティーとジャパンマインドデザインであることに変わりはない。