「あぁ、いい雰囲気だな」と思える灯りを – 後藤照明 –

「あなたの部屋は、どんな灯りですか。」

と聞かれて、自室の照明をはっきりと思い浮かべられる人は、どのくらいいるでしょうか。
近頃では、間接照明など、灯りにこだわりを持つ方もいらっしゃいますが、天井の照明そのものを付替えたことがある人は、それほど多くないのでは。

東京・墨田区で120年以上続く、後藤照明株式会社。
代表の後藤榮紀(ごとうえいき)さんは「照明器具は部屋との調和」と語ります。

今回は、長い歴史の中で培われた確かな技術と安全性、そして照明器具への想いを伺いました。


*後藤照明株式会社 代表取締役 後藤 榮紀(ごとう えいき)さん

*この取材は2021年6月中旬に行ったものです。
*新型コロナウイルスの感染リスクを減らすため、最小限の人数で取材・撮影、スタッフのマスク着用などの対策を行っています。

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- 硝子食器から照明器具へ

KONCENT Staff(以下、K):
こんにちは。今日はどうぞよろしくお願いします。

後藤照明株式会社 後藤さん(以下、後藤さん):
よろしくお願いします。

K:
120年以上の歴史と伺いましたが、創業はいつごろですか。

後藤さん:
明治28年(1895年)です。

K:
当初から、照明器具を扱われていたのでしょうか。

後藤さん:
いえ、最初は、硝子製品の焼き付け加工を行っていました。
食器屋さんから依頼を受けて、花などの絵柄を筆で描いたものを販売していたようです。
祖父から父へ代替わりした頃から、だんだんと照明器具を取り扱うようになっていきました。

K:
その頃は、どんな照明器具だったのでしょう。

後藤さん:
「火屋(ほや)」と呼ばれる(筒型の)硝子製のものですね。
その中に、蝋燭や電球を入れて使うんです。

K:
なるほど。同じ硝子製品を取り扱う流れで、照明器具に移り変わったんですね。

後藤さん:
そうですね。昔は「硝子を制するものは、照明を制する」という言葉があるくらい、照明器具も硝子製がメインだったんです。
それが、昭和30年頃から、蛍光灯やプラスティック製のセードが一般家庭でも普及し始めた。
硝子製の照明器具にとっては、大変な時代でしたが、なんとか乗り切ることができて、現在も硝子製のセードも多く扱っています。


*後藤照明の硝子セード。手吹きならではの味わいのある表情が特徴です。

K:
硝子製以外に、アルミ製のセードも扱われていますよね。
こちらは、いつ頃からでしょう?

後藤さん:
もう70年くらいはやっていますね。
一般的に「P1(ピーワン)」と呼ばれる型のものですが、硝子に比べるとアルミ製は比較的安価で、何より割れないのが特徴です。

K:
このアルミ製のものは、後藤さんの会社で製造されているのですか?

後藤さん:
いえ、墨田区の職人の方にお願いしています。
「へら搾り」と言われる技法で、一枚の平な板を回転させながら、「へら」でぐーーーっと曲げていきます。
照明器具以外にも、ロケットや新幹線の先端など大きい物にも使われている方法なんですよ。

K:
世界に誇る、下町のものづくりの力ですね。


*へら絞り:平面状の金属板を回転させながら、「へら」と呼ばれる棒を押し当てて変形させる加工技法。へらに伝わる感触を頼りに、押し当てる力加減を微調整するそうで、熟練した技術がを求められるまさに職人技。

- お寿司屋さんでもあり、コーディネーターでもある

K:
そのほかの部品も、色々な工場や職人の方が作っていらっしゃるんですか。

後藤さん:
そうですね、うちは、お寿司屋さんみたいな感じなんです。

K:
お寿司屋さん!?

後藤さん:
お寿司屋さんのカウンターに座るとケースの中にトロやエンガワなどの「ネタ」が並んでいるでしょう?
そのネタをシャリと一緒に握って、お寿司として出してくれる。
それと同じように、「コード」というシャリと「セード」というネタを組み立てて、照明器具を作っているんです。
だから受注生産でも比較的、短い期間で納められますし、その分、ネタやシャリの仕込み、つまり、部品の品質と管理はしっかり行っています。

K:
部品の種類がかなり多いようですが、後藤さんがデザインされているんですか?

後藤さん:
いえいえ。僕自身はデザインの才能はあまりないと思ってます。
けれど、子供の頃から手仕事を間近で見ていて、技術だけではなく、いいセンスを持っている職人さんが多いなということを知っていて。
そこで「こんな感じの木の飾りを5個くらい」「ヘラ搾りでセードを5種類くらい作ってください」ってお願いするんです。そうすると、5個×5種類×5色など、100通り以上の組み合わせになる。
そこから、色や形の一番いい組合せの照明器具を考えるんです。

K:
なるほど。お寿司屋さんでもあり、コーディネーターでもあるわけですね。

後藤さん:
格好いい言い方をすると、そうですね(笑)。

K:
ところで、カタログを拝見すると、オリジナルの電球も販売されているようですが。

後藤さん:
これですね。『浪漫球(ロマンキュウ)』。


*後藤照明のオリジナル電球『浪漫球』

K:
(パッケージを読む)「いつの夜(世)も 家族団欒 浪漫球」。

後藤さん:
それ、僕が書いたんです(笑)。
昔は、おじいさんもおばあさんもいて、家族みんなで食卓を囲んでいたという雰囲気を詠んでみました。

K:
まさに家族団欒の情景ですね。
いつ頃から販売されているのでしょうか。

後藤さん:
30年前くらいから。ちょうどバブルが弾けた頃に「大正ロマン」や「昭和レトロ」が流行っていた頃ですね。
これは、新潟の職人さんにお願いしていて、1個1個、口で吹いて作っているんですよ。
それから、中を真空にしているので独特のやさしい灯りが生れます。
LEDのものと、ちょっと比べてみましょうか。



*上:真空製法の浪漫球 下:LEDの電球


K:
全然違いますね。
真空製法の「ほわん」としたやわらかい印象に対して、LEDは「はっきり」した直進的な灯りですね。

後藤さん:
そうなんです。時代の流れで「LED」を取り扱わざるを得ない状況ではあるけれど、両方点けてみて「浪漫球(真空製法)の灯りがいい」って言ってくれる方もいて。そういう時は、やっぱりうれしいですね。
それと、LEDは「球(たま)が切れる」というイメージがあまりないと思いますが、真空製法の場合、「黒化現象」といって、最後には球の中が真っ黒になって消えていく。僕は、その姿が格好いいと思っています。

K:
「終わりの美学」ですね。

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- 安心・安全につながる丁寧な仕事


K:
先程、部品は様々な工場や職人の方が作られているというお話がありますが、
組立て作業はこちらで行っているんですよね。

後藤さん:
はい。うちでは、「品質の管理」「検査」「組立て」「点灯試験」「梱包」「発送」を一貫して行っています。

K:
「点灯試験」もされるんですね。

後藤さん:
やはり、安心・安全に使ってもらうためにも、電気系統の部分は一番気を使っています。
もちろん、電気用品安全法(PSE)の技術基準適合試験も受けていますし、取扱説明書もそれぞれの製品に合わせたものを付けています。

では、作業の様子を見てみましょうか。

K:
皆さん、黙々と作業を進めていらっしゃいますね。
机の上に貼ってあるのは、、、メジャー?

後藤さん:
コードの長さも指定があるので、すぐに計って切断しやすくするための工夫ですね。
様々な部品があるので、注文に応じて組立てていきます。

K:
要望にあわせて細かく対応されているんですね。
おおよそ、どのくらいの工程で完成するのでしょうか。

後藤さん:
そうですね、コードを切断したり、吊具やペンダントを取り付けたり。
組立作業は、10工程以上はあります。その後に点灯試験、ダブルチェックもした上で、最終的に梱包・発送を行います。

K:
安全性への取り組みや、1点1点組み立てる手作業の丁寧さから、信頼のできる製品だということが、よくわかりますね。


*注文内容に応じた部品の組み立てを行った後、1点1点、手作業で点灯チェック。ていねいな仕事から信頼の厚さを感じられる。

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- 「あぁ、いい雰囲気だな」と思える灯りを

K:
120年以上の歴史のある家業ですが、
後藤さん自身が照明器具を創り続けているのは、なぜでしょう?

後藤さん:
やっぱり、「好き」なんですよね。
部品の組合せをすることも楽しいですし、自分が考えたものが実際に使われているのを見ると、うれしくなりますね。

K:
個人宅だけではなく、カフェなどの店舗で使われていることも多いですよね。

後藤さん:
はい。街を歩いていて見かけると、自己満足かもしれないけれど、
「あぁ、やっぱりいい雰囲気だな」って思います(笑)

K:
後藤さんにとって、照明器具の一番大切なことは何でしょうか。

後藤さん:
「部屋との調和」ですね。
照明は灯りを点けるためものですが、消した時にも室内とのバランスが取れているものがいいと思います。
あとは、(部品の)組合せをする時にも「どういう所につけるか」ということは必ず考えます。

K:
シンプルで、スッキリとしたデザインが多いのも、そういった点からでしょうか?

後藤さん:
そうですね。照明だけが目立ちすぎるのではなくて、座った時に「なんか落ち着くな」という感じ方が大事だと思います。
例えば、本当にいいウイスキーならバカラのグラスで呑むのもいいけれど、手ごろな価格のものなら普通のシンプルなグラスで呑む方が、味わいがあるんじゃないかなって思う。

K:
その空間で「生活する人」が主役なんですね。

後藤さん:
まあ、なかなか難しいですけれど(笑)。
でも、照明器具って、そんなに頻繁に変えるものではないから、「お、いいな」って思えて比較的長く使えることが、その人にとっていいモノなのだと思います。

K:
なるほど。空間にあった照明器具を選ぶことで、豊かな生活へとつながりますね。
本日は、貴重なお話ありがとうございました。

下町ならではの、まわりへの気遣いがさりげなく感じられ、やさしく部屋を照らしてくれる後藤照明の灯り。
作っている方の想いを知ることで、よりいっそう安心や魅力を感じることができました。
いつもの生活に「新しいけれど、どこか懐かしい」手作りの照明器具を取り入れて、ほっとする時間や場所を過ごしてみませんか。

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