今や東京屈指のコーヒーの街として知られる蔵前。なかでもパイオニア的存在の『SOL’S COFFEE(ソルズコーヒー)』さんは、KONCENTの本店が蔵前にあったころからのお付き合いです。代表のアライリエコさんにコーヒーについてのお話とcerapotta『セラミックコーヒーフィルター』の感想を伺いました。
写真左:SCA(スペシャルティコーヒー協会)が定めた基準・手順に則ってコーヒーの評価ができることをCQI(Coffee Quality Institute)が認定した技能者を指す「Qグレーダー」のライセンスを持つ焙煎士 中島祥氏/写真右:SOL’S COFFEE 代表 アライリエコ氏
コーヒーをおいしいと思ったことがなかった
KONCENT(以下、K):
アライさんの「コーヒーの原体験」を教えてください。
アライリエコさん(以下、アライさん):
中学3年生のころ、従兄弟を訪ねてオーストラリアに2週間ほど滞在したことがあるんです。当時はまだコーヒーを飲む習慣はなかったんですが、「オーストラリアの人々は健康のためにコーヒーを飲む」ということを従兄弟やその友人たちに教えられ、地元のカフェにたくさん連れて行ってもらったのがコーヒーの原体験です。コーヒーを飲みに行ってバリスタとの会話を楽しむのがかっこいいなと、味の印象よりも、そのライフスタイルの方が強く印象に残りました。
K:
それからどのような経緯でコーヒーを仕事にするまでに至ったのでしょうか?
アライさん:
学生のころに大手コーヒーチェーンでアルバイトをしていて、スタッフと常連客の会話などコーヒー店で繰り広げられる接客やコミュニケーションは楽しくてとても好きだったものの、そのときはまだコーヒーがおいしいとは思ってなくて(笑)
建築の勉強をして第一志望の企業から内定をもらっていたんですが、リーマンショックの影響で、なんと内定取り消しになってしまって。すでに就職活動は終わってる時期で「どうしよう?」と途方に暮れていました。
セレンディピティな出会い
アライさん:
そのころ、趣味で「毎日飲んでも体にやさしいコーヒー」を研究されている方と出会いまして。その方が副業としてコーヒーの仕事を始めようとされていた矢先に、お亡くなりになってしまい……。遺されたコーヒーを淹れてみたら、めちゃくちゃおいしくて!! そのとき初めてコーヒーがおいしいと感じたんです。
K:
どんな味だったのでしょう?
アライさん:
苦くも酸っぱくもなく、甘みを感じました。タンザニア産の豆でしたね。その方の遺志を継いで「毎日飲んでも体にやさしい」をコンセプトに掲げて、コーヒー屋を始めることにしたんです。それが2009年のこと。
車での移動販売から始まり、新小岩の『SOL’S CAFÉ』を経て2013年、蔵前に『SOL’S COFFEE STAND』を開店しました。
K:
当時、弊社(アッシュコンセプト)のスタッフがSOL’Sさんに通い始めて、代表の名児耶に勧めたところ、おいしさに感動して「あそこのコーヒー、飲んだ?」としばらく社内で話題騒然となっていました。「KONCENTでもこのコーヒーを出したい」とお願いしたんですよね。
アライさん:
最初は冗談だと思って受け流していたんですが、正式にミーティングを設定されて「本気なんだ!」と思って、さすがに震えました(笑)
K:
2014年に『KONCENT 蔵前本店』でショップ・イン・ショップの『KONCENT×SOL’S COFFEE』が始まり、建物の取り壊しのため移転した『KONCENT 駒形本店』でも引き続き、SOL’Sさんにお世話になっています(*)。蔵前はこの10年でずいぶんコーヒーショップが増えましたね。
*現在は終了。
アライさん:
開店当時は、蔵前で自家焙煎をやっているのはうちだけだったんですが、今では東京で最も焙煎機が多い街になってるみたいです。
K:
今は焙煎機の開発もされているんですよね?
アライさん:
2021年に私の父が亡くなって、実家の鉄工所を継ぐことになったんです。それで「世界に誇る日本製の焙煎機メーカー」を目指そうと決心して。このプロジェクトのおかげで同業者(ロースター)の豆を買ったり、お話を聞いたりする機会が増えました。
現在は、フジローヤルの半熱風式焙煎機を使用。オリジナルの焙煎機が登場する日も近い!?
おいしいコーヒーの真実
K:
スペシャルティコーヒーの魅力について教えてください。
アライさん:
スペシャルティコーヒーは高品質であることはもちろんなんだけど、サステナビリティやトレーサビリティも重要な要素で。学生のころに観た『おいしいコーヒーの真実』という映画で、搾取されているコーヒー農家の実態、生産国の貧困問題など、コーヒー産業の現実を知って衝撃を受けたんですね。なので、公正な取引を重視するスペシャルティコーヒー運動にはすごく賛同しています。
K:
単に味を追求するためのグレードではなく、コーヒー産業の構造的側面に踏み込んだ取り組み、“社会運動” なんですね。
アライさん:
そうなんです。一方で味については… 日本でもスペシャルティコーヒーが知られ始めてきた当初は、正直、どうしていくのが良いのかなと悩んだ部分もありました。スペシャルティコーヒーは、農園の個性を尊重するために豆はあまり焼かないのが良しとされていて、酸味が強く果実感を楽しむもの、とされていました。
でも、日本人は深煎りの味に慣れ親しんでいるから、受け入れられるのかな?と。日本のコーヒー文化は元をたどればバッハさん(南千住にある自家焙煎の純喫茶『Cafe Bach』さん)で、私たちもその影響を受けていたし、SOL’Sの味のファンの方もいらっしゃったので。
だから、浅煎りだけにこだわらず、自分たちなりの解釈で柔軟に、日本人が飲みやすい焙煎でおいしさを追求していけばいいか、と。農園の方々のものづくりに対する考え方や、どんな人が運んできてくれているのか、というストーリーに共感して仕入れて、自分たちのコンセプトに則って焙煎・抽出することで、スペシャルティコーヒー運動に参加しているつもりです。
棚に並ぶ抽出器具の数々。柔軟にさまざまな可能性を検証している。
コーヒーを淹れる時間
K:
アライさんにとって「コーヒーを淹れる時間」とはどのようなものでしょうか?
アライさん:
深呼吸ですね。ほかの仕事をしてるときはザワザワしてるんだけど、コーヒーをドリップするときは、ゆっくり呼吸しながら周りを見渡す時間になる。もう、時が止まったかのように落ち着きます。
K:
深呼吸する時間、大事ですね。
アライさん:
コーヒーのセミナーなどでドリップを指導するときに、「1分ぐらいかけてゆっくり円を描くようにお湯を注ぎましょう」ってお伝えすると、息を止めてる方が結構いらっしゃるんですね。そうすると緊張して “強いコーヒー” になっちゃう。リラックスして、深呼吸しながらドリップするのがおいしくなる秘訣なんじゃないかな?
K:
たしかに、せかせかした気分で淹れるよりも、落ち着いた気分で淹れたほうがおいしそう…。
アライさん:
SOL’Sは、お客様に「コーヒーのある暮らし」を多角的に提案していますが、忙しい毎日のなかで「コーヒーを淹れる時間」をつくるのがどれほど大変か、ということを子育てしていると実感します。
「コーヒーを淹れる時間」をつくるために、仕事や家事を効率よく早く終わらせることでゆとりができたり、コーヒーを淹れることによって、「自分自身に良いことをした」と思えて励みになったり、お気に入りの道具を使うことでテンションが上がったり…… そうやって「コーヒーを淹れる時間」がアクセントになって、暮らしを豊かにしていくんじゃないかなと思います。
cerapotta『セラミックコーヒーフィルター』の感想
ここからは中島さんにも加わっていただき、お話を伺います。
K:
ご使用いただいて、いかがでしたか?
アライさん:
ペーパーフィルターが不要で、コーヒーかすを堆肥などにアップサイクルしやすく、環境に配慮したプロダクトということ、また、日本の伝統技術で世界に挑戦しているところに魅力を感じました。
中島さん:
抽出に関しては、豆の個性を最大限に引き出してくれる印象です。お湯を注いでいると後半になるにつれて濃く出るという特性があるようで、これはペーパーフィルターの逆なんですね。それを踏まえて、抽出時間をコントロールすることがおいしく淹れるコツかな、と。
簡単に言うと、早く淹れるとさっぱりした味に、ゆっくり淹れると濃い味になる。コツさえつかめば、汎用性があるので、どんな豆でもおいしく淹れられるんじゃないかな?
K:
コツをつかんで好みの味を探していきたいです。今回は貴重なお話、ありがとうございました。
レシピ開発は理科の実験のよう。cerapotta『セラミックコーヒーフィルター』がセットされたビーカーはBOROSIL VISION GLASSとコラボしたSOL’S COFFEEオリジナルサーバー。オンラインショップで購入できる。
SOL’S COFFEEさんからcerapotta『セラミックコーヒーフィルター』を使ったおすすめの淹れ方を教えていただきました。ぜひ、こちらの淹れ方もお試しください!
おすすめの淹れ方
①中煎りの『エチオピア アラカ ウォッシュド』20g をグラインダーで(ご家庭ではミルで)粗挽きに。
②90℃のお湯300ml をドリップケトルに用意する。
③デジタルスケールにコーヒーサーバーとcerapotta『セラミックフィルター』をのせ、0になるようリセット。20g になるまでお湯を注いだら、30秒蒸らす。
④1分間で200g になるまでお湯を細く注ぐ。
⑤30秒で250g になるまでお湯を太めに注ぐ。
注ぎ始めてから2分間で落としきるイメージです。
デジタルスケール、タイマー、温度計があると、より正確に再現できる。
メタッド社のエチオピア アラカ ウォッシュド。白ぶどうや白ワインのようなすっきりした香りが特徴。SOL’S COFFEE独自のローストポイントで3.5は中煎りにあたる。
SOL’S COFFEE ROASTERY
東京都台東区浅草橋3-25-7
Tel. 03-5829-8824
営業時間
平日:8:00~17:00
土日祝:9:00~18:00
定休日:水曜日
https://sols-coffee.com/
“Serendipity Of Life”の頭文字から名付けられた『SOL’S COFFEE』は、「セレンディピティ体験を通じてお客様の理想の一杯を提供する」をミッションに、お客様の生活に寄り添う毎日飲んでも体に優しい珈琲を日々提供しています。
蔵前で最初に開店した『SOL’S COFFEE STAND』のほか、福井県若狭町熊川宿の『SOL’S COFFEE LABORATERY』、東京ソラマチスカイツリータウンの『SOL’S COFFEE SOLAMACHI』、板橋の『SOL’S COFFEE APARTMENT』の全5店舗を展開。
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