2023年度のソーシャルプロダクツ・アワードで環境大臣特別賞を受賞し、海外からも注目を集める『KURAMAEモデル』。プロジェクトを運営する『珈琲焙煎処 縁の木』代表の白羽玲子さんにコーヒーについてのお話とcerapotta『セラミックコーヒーフィルター』の感想を伺いました。
写真:KURAMAEモデルの運営事務局にもなっている『ZEROラボ』にて。蔵前駅A1a出口からすぐの場所にある焙煎所とは少し離れた台東区三筋にある。
蔵前の人々と交流できる仕事を
KONCENT(以下、K):
白羽さんが焙煎所を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
白羽玲子さん(以下、白羽さん):
コーヒーの仕事って、コーヒーが大好きでこだわりを持って開業される方がほとんどだと思いますが、私の場合は違いまして…。次男が3歳児検診の際に知的障害を伴う自閉症であることがわかり、会社勤めをしながらの育児は難しいので、起業しようと思ったんですね。将来的には障がい者の方々の仕事のひとつになれば…という思いもありました。それで、地元の人々と交流できる仕事をしようと思ったのが第一歩で、最初から焙煎所をやりたいと決めて始めたわけではないんです。
K:
そうだったんですね。
白羽さん:
福祉事業所ではクッキーやパンを作っていることが多いので、それと相性の良い「飲み物」の仕事にしようと思いました。じつは私は紅茶のほうが好きなので、紅茶も検討しましたが、蔵前で紅茶の加工をするのは無理があり、かといって仕入れて売るだけでは雇用や仕事を生み出す事業として厳しい。コーヒーの焙煎なら、事業として付加価値をつくりやすいのでは?と思ったんです。
K:
自分のやりたいことが起点ではなく、課題解決の手段として、ということですね。
白羽さん:
前職は出版社の広告営業だったので、そのつてで企業のノベルティや周年記念品、時候の手土産用として、お菓子とコーヒーの詰め合わせを作る仕事ができると見込んでいました。福祉事業所は1ヵ所では製造できる量は限られますが、何ヵ所か集まれば詰め合わせを作ることができます。焙煎して挽いたコーヒーをドリップパックに詰める工程を福祉事業所に依頼すれば、彼らの新しい仕事にもなりますし。
K:
そこまでビジネスモデルを考えたうえでの、「焙煎所」だったんですね。
白羽さん:
電気式の小さな焙煎機なら、そんなに場所も取らず、広い物件じゃなくてもできますから。一度に焼ける量は少ないですが、失敗も少なくて済むというメリットもあります。たくさんのコーヒー屋さんを訪ね歩いて、三河島のカメヤマ珈琲さんが使っていらっしゃる焙煎機が理想的だなと思い、働かせてもらいながら、焙煎機の使い方だけでなく、さまざまなことを教えていただきました。
K:
コーヒー修行ですか。
白羽さん:
はい。半年間、週1〜2回働かせてもらって、焙煎機のことや、豆の仕入先など、焙煎所のノウハウを教えてもらい、2014年に『珈琲焙煎処 縁の木』を開店しました。
福祉事業所で作られた焼き菓子などのスイーツは、『ZEROラボ』(実店舗)または『縁の木』オンラインショップで購入できる。
テスト焙煎やブレンド試作、新豆入荷の切替時など、試行錯誤の末に少量ずつ余ってしまう豆からおいしく飲めるものを厳選した『一期一縁ドリップパック』。
一人ひとりに寄り添うコーヒー
K:
縁の木さんのこだわりを教えていただけますか?
白羽さん:
焙煎前と焙煎後にソーティングで欠点豆を取り除くことで、「体にやさしいコーヒー」を目指しています。そして、鮮度ですね。うちは注文を受けてから焼くスタイルです。少しお待たせしてしまいますけどね。お客様の好みに合わせた焙煎もできます。
K:
自分の好みを伝えて良いんですね。
白羽さん:
もちろん「この豆は浅煎りのほうがいい」など、焙煎のセオリーはありますが、“おいしさ”って、その人の育ってきた環境や体質によるところが大きいじゃないですか。その人が「絶対、深煎りがおいしいんだ!」って思っているなら、それに合わせてあげたほうがいいと思うんですよね。
K:
なるほど。
白羽さん:
少量で焙煎できるので、「今日は中煎りにしてみようかな?」なんて気軽に試していくうちに「絶対、深煎りしか飲まない」って言ってた人も「中煎りがおいしいね」って言い出すこともありますよ。
K:
自由においしさを探す楽しみがありますね。
白羽さん:
あと、“思い出の味”を再現したこともありましたね。あるご年配のお客様が「昔飲んだコーヒーが夢のようにおいしかったんだ」っておっしゃっていて。記憶の中の缶のイメージから豆の種類を特定して、焙煎や挽き方、淹れ方をいろいろ試しながら、探り当てました。
K:
それは喜ばれたでしょうね。白羽さんご自身のコーヒーの思い出はありますか?
白羽さん:
祖父が自宅の庭で七輪と焙烙鍋でコーヒー豆を焙煎していたのが、子供の頃のコーヒーの思い出ですね。
K:
今でこそ自宅で焙煎を楽しむ方もいますが、ずいぶん先進的ですね。
白羽さん:
洒脱な祖父で、「これは大人の飲み物だから、子供は飲んじゃいかんのよ」なんて言いながらやってましたね。実際、とても苦くて「これは飲めない!」と思いました(笑)。
焙煎を担当する上田さん。注文を受けてから焼くスタイルは小さな焙煎機ならではの強み。
焙煎前のコーヒー生豆。オリジナルブレンドやシングルオリジン、有機無農薬など、豊富なラインナップから選べる。
焙煎前と焙煎後にソーティングで欠点豆を取り除くことで雑味やエグみが抑えられる。
『KURAMAEモデル』とは
K:
2023年度のソーシャルプロダクツ・アワードで環境大臣特別賞を受賞した『KURAMAEモデル』について教えてください。
白羽さん:
かねてから、コーヒーにまつわるゴミの多さはどうにかならないものかと思っていまして。それで2020年に、カフェや焙煎所から出る麻袋やコーヒーかす、欠点豆、チャフ(焙煎時に出る燃えかす)などの回収と加工を福祉事業所が担当し、アップサイクルされた商品を地元に戻して販売するサーキュラー・エコノミー(循環型経済)の仕組みを考えました。
忙しいカフェや焙煎所のスタッフがわざわざ回収拠点へ廃棄物を持っていくのは手間がかかりますが、店まで回収に来てくれるなら参加しやすい。SOL’S COFFEEさん(vol.1に登場)をはじめ、蔵前のお店の方々にご協力いただいて実現しました。コーヒーかすは堆肥に、麻袋はトートバッグなどにアップサイクルしています。
K:
素晴らしいインクルーシブな取り組みですね! アサヒビールさんの『蔵前BLACK』『蔵前WHITE』はどのような経緯で実現したのでしょうか?
白羽さん:
Twitterでの交流をきっかけに、アサヒビールさんのご担当者さんが訪ねてきてくださって。アサヒビールさんが元々、廃棄コーヒー豆を活かしたクラフトビールのプロジェクトを計画されていて、KURAMAEモデルの仕組みでご一緒しようということになったんです。
K:
縁がつながって、地域が一体となって、SDGs達成に貢献するさまざまなプロジェクトが生まれてきたんですね。
KURAMAEモデルのプロジェクトが増えてくるなか「同志が集まるための旗印が必要」とのことで、白羽さんから依頼を受けたアッシュコンセプトがロゴデザインを担当。
アサヒユウアスのサステナブルクラフト『蔵前BLACK』には廃棄コーヒー豆を、『蔵前WHITE』にはサンドイッチ製造で発生するパン耳を、KURAMAEモデルで回収・加工し、原材料として供給している。
アサヒビールとパナソニックの共同開発による、リサイクル素材でできた『森のタンブラー』のKURAMAEモデルバージョン。
コーヒー豆の麻袋をアップサイクルしたトートバッグ。これらの商品も『ZEROラボ』(実店舗)または『縁の木』オンラインショップで購入できる。
cerapotta『セラミックコーヒーフィルター』の感想
K:
ご使用いただいて、いかがでしたか?
白羽さん:
「紙フィルターがいらない」という点に共感します。“たった紙1枚”かもしれませんが、そういうゴミ問題や環境問題などに意識を向けるきっかけをつくることが大事だと思います。選択肢のひとつとして、そういう抽出器具を持っておくというのは、私は好きですね。
K:
味についてはいかがですか?
白羽さん:
粗め・多めの豆で、あまり時間をかけずにサーッと淹れるとクリアな味わいになっておいしかったです。深煎りじゃない豆のほうがこの器具の真価が活きる気がしますね。
いつもの味を再現するのもいいかもしれませんが、私はこの器具ならではの楽しみ方をしたほうがいいと思うんです。コーヒーは、豆が良ければ必ずおいしくなるとも限らなくて、焙煎、挽き方、温度、淹れる道具、淹れるスピードで変わります。cerapottaは、淹れる人によって違いが出やすい抽出器具かもしれませんね。
コーヒーを淹れる時間
K:
白羽さんは「コーヒーを淹れる時間」をどのように捉えていらっしゃいますか?
白羽さん:
豆や道具や淹れ方など、こだわることができる人はこだわればいいと思いますが、無理してこだわらなくてもいいんじゃないかな?
例えば、「夫婦でお互い忙しくてあまり話す時間がないけど、朝のコーヒーだけは一緒に飲める」という状況があった場合、「豆は淹れる直前に挽かないとダメ!」なんてこだわりすぎて、挽く時間がないという理由でコーヒーを飲む機会が減るぐらいなら、お店で挽いていったほうが断然いい。コーヒーを飲みながらおしゃべりを楽しむ余裕ができるほうがいいじゃないですか。
コーヒーがもたらしてくれる時間で生まれるコミュニケーションに価値があると思いますね。お客様の時間や空間に寄り添えるコーヒーであってほしいな、と思いながら焙煎しています。
K:
コーヒーが取り持つ縁、そこから生まれる心の交流…。今回は貴重なお話、ありがとうございました。
白羽さんからcerapotta『セラミックコーヒーフィルター』を使ったおすすめの淹れ方を教えていただきました。ぜひ、こちらの淹れ方もお試しください!
おすすめの淹れ方
①中浅煎りの『ルワンダ キニニ ターナー』21g をグラインダーで(ご家庭ではミルで)粗挽きに。
②90℃のお湯300ml をドリップケトルに用意する。
③デジタルスケールにコーヒーサーバーとcerapotta『セラミックフィルター』をのせ、0になるようリセット。50g になるまでお湯を注いだら、20秒蒸らす。
④前半はゆっくりとお湯を注ぐ。
⑤後半は多めのお湯で少し圧力をかけるイメージで落とす。
全体で2分半で落としきるイメージです。
うっすらと浮く油膜は、芳醇な香りと深みを含んだコーヒーオイル。ペーパーフィルターを使わないので、オイルが紙に吸着されることなく抽出できる。
レーズンのような甘い香りが特徴の『ルワンダ キニニ ターナー』。
珈琲焙煎処 縁の木
東京都台東区蔵前2-3-1ソレイユ蔵前
Tel. 050ー3701ー1178
営業時間
12:00~17:00
定休日:月・水・祝日
https://en-no-ki.com/
少量ずつ焙煎できる日本に数台しかないロースターを使って、お好みの豆をご注文ごとに焼き上げています。店舗では障害のある方たちの施設外就労訓練を受け入れながら、共にできる仕事を模索し、日々楽しく焙煎しています。
オンラインショップ
https://ennoki.thebase.in/
ZEROラボ
東京都台東区三筋2-17-2
KURAMAEモデル
https://kuramae-model.org/
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