蔵前とコーヒーと、 |vol.4|カキモリ 広瀬琢磨氏

カキモリ 広瀬琢磨 蔵前

街の人気を牽引する、蔵前を語る上で欠かせない存在『カキモリ』の代表であり、コーヒー好きを自認する広瀬琢磨さんに、コーヒーについてのお話とcerapotta『セラミックコーヒーフィルター』の感想を伺いました。

写真:『カキモリ』1Fで出迎えてくださった広瀬さん。開口一番「使ってみましたよ!」と感想を語ってくださった。

蔵前 カキモリ 広瀬琢磨氏

KONCENT(以下、K)
早速ですが、使ってみていかがでしたか?

広瀬琢磨さん(以下、広瀬さん)
ふだんは円錐型のステンレスフィルターでコーヒーを淹れていて、紙フィルターを使わずに淹れることには慣れているんですが、いつもとは違う感覚で面白かったです。コーヒーの出方? 落ち方っていうのかな? 結構違いがありますね。

K
どのような違いでしょう?

広瀬さん
ステンレスフィルターは目詰まりしやすいこともあり、ドリップのコントロールが難しく感じるんです。cerapotta『セラミックコーヒーフィルター』は底が平らになっているせいか、サーっとお湯を注いでもほどよく抽出でき、泡のふくらみもあって、僕のような素人にも使いやすいなと思いました。

K
味はいかがでしたか?

広瀬さん
いつも飲んでいるのと同じSOL’S COFFEEさん(vol.1に登場)の中浅煎りの豆で、粗挽きにして比較したんですが、めちゃくちゃおいしかったです。フィルターによるものなのか、SOL’Sさんの豆がおいしいのか…。

K:
相乗効果でしょうか?(笑) 側面の傾斜角はさまざまな角度を試して、おいしく抽出できる形状を導き出したとのことです。

広瀬さん:
ふだんステンレスフィルターで粗挽きの豆をドリップすると、味が薄くなっちゃったり、香りが出なかったりするんですが、そういうことがなく。何が作用しているのか僕にはわかりませんが。口当たりもまろやかです。水が変わるんですかね? ふだん淹れているコーヒーよりおいしいと感じました。

K:
良い評価をいただけてうれしいです。

広瀬さん:
敢えて難点を挙げると、マグカップに直接のせてドリップする時に、フィルターの底がコーヒーに浸かってしまいそうになることと、ドリップ後のフィルターの置き場に困ることかな。

K:
4杯分まで淹れられる設計になっているので、口が大きかったり、少し浅めのマグカップなど、種類によっては少し浸かってしまう場合もあるかもしれません。ドリップ後のフィルターを置くための受け皿などを用意していただく必要もありますね。

広瀬さん:
倒したり落として割れたりしたら悲しいし、コーヒーかすが入ってるから逆さまには置けないし…。そのままの向きだと
形状的に不安定な気がして。コーヒーサーバーが付属してたらうれしいな。

K:
貴重なご意見ありがとうございます。

広瀬さん:
あと、セラミックフィルターは、素材感から醸成される情緒性もいいですね。ネルドリップ(布ドリップ)はちょっとハードルが高いけど、セラミックフィルターは気軽に使える。選択肢のひとつとしてアリだな、と。

K:
この多孔質素材は波佐見焼で、熟練の職人さんの手仕事で仕上げられてるんです。

広瀬:
そうなんだ。こういう情緒性があるものって、オフィスで使っても単にコーヒーを淹れるだけじゃなくて、コミュニケーションのきっかけにもなりそうですよね。

kakimori

我々も気づかないような魅力を次々に語ってくださった。

情緒性あふれる『カキモリ』のアイテム。しずくをモチーフにした、小泉誠氏デザインのペンレストは、波佐見焼でつくられている。

サステナブルなプロダクト

広瀬さん
我が家ではコンポストをやってるんですが、紙フィルターは堆肥化できないので、紙フィルターからコーヒーかすを掻き出してコンポストに入れるという手間を考えると、ステンレスフィルターやセラミックフィルターの方がコーヒーかすを捨てやすいという利点もあるんですよね。

K
なるほど。紙フィルターがないとコーヒーかすを捨てるのが面倒と思われがちですが、コンポストがあるご家庭や施設では、むしろ紙フィルターが邪魔になるんですね。

広瀬さん
コーヒーかすは水分を多く含んでいて、ゴミ処理場のコストもかかる。だから、堆肥にした方がいいんですよ。

K:
蔵前は街としても堆肥化に取り組んでますよね。(vol.2に掲載のKURAMAEモデルによる堆肥化の取り組み)

広瀬さん:
環境意識の高い人にも響くプロダクトなんじゃないかな。ところで、洗うときにスポンジを使いそうになっちゃったけど、ダメなんですよね?

K
多孔質素材の奥に洗剤成分や香料が入り込み、抽出する飲み物の味わいを損ねる可能性があるので、水洗いでお願いします。メンテナンスブラシを使うとより簡単に洗えます。

SCAJ2023

『cerapotta』はアジア最大のスペシャルティコーヒーイベント“SCAJ2023”に出展。New Product Award において、SUSTAINABLE PRODUCT賞を受賞した。

ふだんのお手入れは水洗いだけでOK。メンテナンスブラシがあると、より簡単にコーヒーかすを掻き出すことができる。

コーヒーを淹れる時間

蔵前 カキモリ

K
広瀬さんがコーヒー好きになったきっかけは何かあったのでしょうか?

広瀬さん:
元々は深煎りコーヒーが好きで出勤時にコンビニのコーヒーを飲んでたんですが、出勤ルートにSOL’S COFFEEのスタンドができて(KONCENT 蔵前本店の店先で展開していた期間限定スタンド/現在は終了)、おいしくて毎朝飲んでたら、もうそっちの味に慣れてしまって。今では完全にスペシャルティコーヒーが好きになりました。コーヒーにお金がかかる舌になってしまったのは、SOL’Sとアッシュ(KONCENTを運営するアッシュコンセプト)のせいですね(笑)

K:
コーヒーが毎日のルーティーンに組み込まれている感じですね。

広瀬さん
コーヒーがないと仕事ができない。結構カフェイン摂ってますね。朝飲んで、昼も飲んで、夜はアルコールで寝る、と。これが蔵前スタイル!(笑)

K:
いいですね!(笑) 広瀬さんは「コーヒーを淹れる時間」をどのように捉えていらっしゃいますか?

広瀬さん:
朝のスイッチかな? まだ家族が寝ているうちに起きて、ラジオをつけて、コーヒーを淹れている時間が豊かだなと感じますね。コーヒーを淹れる動作で体が目覚めて、コーヒーの香りや味わいなど五感が刺激されて頭も目覚める。体と頭が始動するスイッチがちゃんと点く、という感じがします。

カキモリ

自動車整備工場をリノベーションした店内は、インダストリアルな雰囲気を残しながら、木をふんだんに使い、ガラスのファサードからの採光で明るくあたたかみがあり、たのしくなる空間。

M2Fにある『Inkstand by kakimori』は予約制のオーダメイドでインクを作れるショップ。

インクスタンド

非日常空間で集中して“色”に向き合い、感じることができる。

「書くこと」と「淹れること」の関係性

コーヒー

広瀬さんの愛用品。自社のアイテムとともに大事に扱われているのは、ぺんてる創立50周年記念のノベルティとして販売店に配られたというペン(ノートの上)。

K:
「書くこと」と「コーヒー」は密接な関係にあると思いますが、いかがでしょうか?

広瀬さん
「書くこと」が今、ストレスになってると思うんです。直筆で手紙を書くとか面倒くさいじゃないですか。気が重いというか。書き始めればたのしいんですけどね。「書くこと」がちょっと特別な体験に変わってきているんじゃないかと。

豆をグラインダーで挽いて、コーヒーを淹れる、っていうのも面倒くさいんだけど、万年筆にインクをつけて書く、っていうのも相当面倒くさい。そういう親和性はあるよね、「書くこと」と「淹れること」は。

「わざわざ手間のかかることをやる」という体験が、自己肯定感を上げてくれると思うんです。便利で手軽な世の中になったからこそ、そういう面倒なことや人が介在して生まれるものの価値が上がっているんじゃないでしょうか。

カキモリ

どうしたら書いてくれるんだろうという視点で考えて、サービスや商品ラインナップが決まっていく。最終的に「たのしく、書く」ことにたどり着くように設計されている。

『カキモリ』のはじまり

K:
カキモリさんが生まれたきっかけは何だったのでしょうか?

広瀬さん
祖父の代から群馬で文房具店を営んでいまして、マス向けの大型事務用品店が3店舗あるんですが、僕はそれには興味が持てなくて。とはいえ、この家業で育ててもらったということもあり、文房具・事務用品のカテゴリで自分が価値があると思うことをやってみようと思ったのがきっかけです。

中でも書くことに興味があったので、書くきっかけを作る文房具店というコンセプトで2010年に『カキモリ』を開店した、という経緯ですね。オンラインではできないサービスを、ということで対面に特化し、オーダーメイドのサービスを始めました。

K
出店場所として蔵前を選んだのは、何か理由があるんですか?

広瀬さん
当初は馬喰町や浅草も検討していたんですが、ある時、国際通りにあるタイガービルに目が留まって。当時は1Fに『HOWLING UNITY』というヴィンテージ家具屋さんが入ってましたね。「この通りが盛り上がる日が来るんじゃないかな?」と直感したんです。

K:
それは先見の明というか、ご慧眼というか…。蔵前が“東京のブルックリン”として関心を集めることを予見されてたんですね。

広瀬さん:
今は店舗が三筋に移転して、国際通りから少し離れてしまいましたけどね。住まいを札幌に移したので、今は2週間に1回、蔵前に来て2〜3日滞在するという生活なんですが、外から蔵前を見てみると、「やっぱり蔵前でよかったな」って思いますね。

K:
おいしいコーヒー屋さんもたくさんありますからね。

広瀬さん:
それに加えて、蔵前の中にいる時は、横のつながりが当たり前のように感じていましたが、それって、そう簡単にできるものじゃないんだなとわかりました。名児耶さん(アッシュコンセプト代表)や村上さん(エムピウ代表)のように、つなげようと動かす人がいてつながってきている、それを再認識しました。

K:
それは広瀬さんの功績も大きいのではないでしょうか。今回は貴重なお話、ありがとうございました。

カキモリ

カキモリ
東京都台東区三筋1-6-2 1F

営業時間
平日:12:00〜18:00
土・日・祝:11:00〜18:00
定休日:月(祝日は営業)
https://kakimori.com/

「たのしく、書く人。」のための文具店。お好みで作るオーダーノートやオーダーインク。愛着の湧く、古びない文具セレクション。自分のために、大切な誰かのために「書く」たのしみをご提供します。