Design Story ITO BINDERY Notebook (中篇)

2019年11月、東京・墨田区の製本会社 伊藤バインダリーより、
アッシュコンセプトがデザインプロデュースを行った新作「Notebook」が発売されました。

今回は、伊藤バインダリー代表・伊藤 雅樹さんとアッシュコンセプト代表・名児耶 秀美(なごや ひでよし)の対談の
中篇をお送りします。

※前篇はこちらからご覧いただけます。
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ものづくりの技術とこだわりを積み重ねたノート

KONCENT STAFF(以下 K):
すみだものづくりコラボレーション事業としてはじまった、ノート開発ですが、
最初から完成形は見えていたのでしょうか?
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名児耶:
手始めにノート作りの参考として、いろいろな文房具売り場に行きました。
そこで「ノートってこんなにあるの!?」って。
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伊藤 雅樹さん(以下 伊藤さん):
すごいですよね。独特で。
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名児耶:
売り場に1時間半くらいいて、全部見て、真剣に悩んだ。
その中で、いくつか買って使ってみたんですよ。
でも、やっぱり何か違うんだよね。いろいろ工夫して作られているけれど、
「自分はこれじゃ満足できないな」と思って。

例えば、紙の厚さ。
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伊藤さん:
いっぱいありますよね。
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名児耶:
厚さの単位って、” キロ ” で表すんでしょ?
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伊藤さん:
そうですね。紙を1000枚に重ねた時の重さで、紙の厚みを表現するんです。
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伊藤さん:
書く時の力の入れ具合など、人それぞれ好みがありますしね。
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名児耶:
書いた後に、裏写りするのはあまりよくない。
いろいろな紙で「もっと薄い紙のほうがいい」とか、
「これだと裏に写っちゃう」とか試して。
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伊藤さん:
最終的に紙の品質は製造過程で使用する ” 水 ” で決まるので、
製紙工場を限定して、なめらかで書き心地が良く、
かつ ” やさしい白 ” が特徴の紙を選びました。
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K:
紙のお話がでましたが、ページ数についてはいかがでしょうか。
毎日持ち歩くノートというコンセプトですが、” 272ページ ” ?
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名児耶:
このノートを仕事メインで使うとしたら、
1年間で仕事をしない日(土日)をのぞいて、260ページくらい。
プラスαで約270ページあればいいんじゃないかな、と。
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伊藤さん:
ページ数は製本で、16ページの繰り返し。16の倍数で決まります。
それで、” 272ページ ” ですね。
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名児耶:
もし1日2ページ使う日があったとしても、
1年間もつようなノートになるんじゃないかなと思って。

それにページ数が多くてあんまり厚くなっても、持って歩く時に重たいから。

サイズも、いろいろ試したけれど、持ち運びやすい」ということで、
最終的には ” A6 ” と ” A5スリム ” の2サイズの展開にして、
使い心地の良い、” いい ” 加減のノートを目指そう、と。
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*手に持った時のサイズ感。左:A6 右:A5スリム
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K:
中身は、” 無地 ” と” グリッド ” の2種類ですが、

個人的には5mm幅のグリッドが少し大きいなと感じていたので、3.5mm幅は新鮮でした。
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名児耶:
グリッドは、線を気にしないで文字を書けるけど、5mmはすごい隙間が空いちゃう。
3.5mmだとちょうどよくて、文字がきれいに書ける。
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K:
5mmだと文字も大きくなりますよね。
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名児耶:
それから、Notebookは
「全体にバチッと端までグリッドを入れたいよね」という話をしていて。
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伊藤さん:
実はページの端までグリッドがあると、きれいに仕上げるのが難しいんです。
縦線に刃が当たってると、小口側(ノートの断面)に色が出てしまう。

なので、Notebookは線の上に包丁の刃が来ないように調整して、
ギリギリのところで最後のグリッドを抜かしています。
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名児耶 :
なるほどね。だから最初、嫌がってたんだね。端っこまでグリッド引くの。
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伊藤さん:
「端までひかずに、空白があったほうが、きれいですよ」って。
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名児耶 :
「いやいや、素直に全部端まで引いて、きれいに切ってよ」って(笑)

でも、おかげでこれはほんとに潔く、グリッドが端まで引かれている。
ストレスがなくて、オープンフィールドみたいな感じだよね。
心を解放するというか。
これをNotebookでできたのは、うれしい。
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*グリッドが端まで引かれていないノートとの比較。下:Notebook 上:ページの端に空白のあるノート
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K:
グリッドの色も特徴的ですよね。

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名児耶:
毎日見るのものだから、目に優しい色を選びたかった。
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伊藤さん:
名児耶さんに印刷立ち合いしていただいて。
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名児耶:
” グリーングレー ” の、一番うすい色に挑戦してもらって。

その結果、書いたメモを邪魔することなく、
読みやすい色合いに仕上がった。
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K:
表紙は、最初からこのようなクロス(布)調のものに決まっていましたか。

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伊藤さん:
サンプルの中から検討しました。
黒、グレーのほかにネイビーがありましたね。
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名児耶:
黒は、真っ黒じゃなくて、
ちょっとグレイッシュな感じのきれいな色で味わいがある。

ネイビーも、紺色というよりも、
黒に近い色のものだったので片方にしぼりました。
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*表紙サンプルでの色比較。 左:グレー 中:ネイビー 右:ブラック
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名児耶:
それと、「表紙を少し硬くしてほしい」ってリクエストもしたよね。
特に取材の人とかは、書くときにノートを折り曲げて使うから。
ある程度の硬さと開きやすさが必要になる。
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伊藤さん:
そうですね。開きやすさに関しては、
” 糸かがり製本 ” の技術を使って、360度開けるようにしてあります。

あと、表紙に力紙(ちからがみ)を貼りあわせているので、
適度な硬さがあって、片手で持った状態でも筆記しやすくなっています。
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名児耶:
あと「これだけは、どうしてもつけてほしい」というものがあって。
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伊藤さん:
” スピン(しおり)” ですね。
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名児耶:
最後ここで終わっているという、印をつけたいから。

でも、Notebookの ”糸かがり製本” ではつけるのが難しいということで、
最初の試作品では、裏表紙にシールで留めていた。
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伊藤さん:
ただ、シールだと使っているうちに剥がれてきてしまうので。
「これでは、世に出せないですよね」と。
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名児耶:
そしたら、伊藤さんが、最後の見返し部分にもう1枚紙を足して、
挟み込みでスピンをつける方法を考えてくれた。
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伊藤さん:
これ、実は1冊1冊、職人が刷毛(はけ)で貼りあわせているんです。

刷毛で1枚糊付けして、
スピンを入れて、もう1枚の紙を倒して挟んで、
何冊か重ねて、万力で圧着させる。

かなりアナログな方法で仕上げています。
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*スピン(しおり)の挟みこみ方法を説明する伊藤さん
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*完成したNotebookのスピン。貼りあわせ部分がわからないほど、きれいに仕上げられている。
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名児耶:
だけど、最後に人の手で仕上げて完成するっていうのが、いいよね。
そして、「ITO BINDERY」のロゴマークも押して、
伊藤バインダリーとして品質も確約している。
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K:
これまで製造されていた「ドローイングパッド」と「メモブロック」は、

すべて ” 空押し(からおし)“ でロゴマークを押しているんですよね。
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名児耶:
昔ながらの古い機械でね、「ガッタン」って。
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*左:伊藤バインダリーの空押し機 右:ドローイングパッドにロゴマークを押したもの。
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伊藤さん:
ただ、今回はノートなので、同じ空押しでは圧力で製品にひずみが出てしまう。
だから、今回は “透明の箔押し” にしています。

使っているときに、ITO BINDERYのロゴマークを意識してほしくないな、と思って、
Notebookでは、見えるか見えないかぐらいの控えめな仕上がりにしました。
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*Notebookに押されているITO BINDERYのロゴマーク。普段は控えめな存在だが、光をあてると輝く透明の箔押し。
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5割バッターとして、愛され続けるノート

K:
一般販売前に、いろいろな方に

試作品を使用していただきましたが、いかがでしたか。
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伊藤さん:
試作品を使ってもらうと、やっぱりいろいろなポイントが出てきて。
全員満足させるのは難しいのだな、と。
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名児耶:
だからこれは、僕は「5割バッター」でいいんじゃないかと。
半分くらいの人が、このノートを嫌わないでいてくれる。
でも中には、1割くらいの「これ大好きっ!」ていう人が出てきてくれたら。
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伊藤さん:
そうですね。
特に今のシーズン(12月~1月)は、世に出ている手帳やノートの量がすごいですからね。

その中で、このシンプルさで、「5割の人」が悪くないって思ってくれたら、
それはすごく、いいんじゃないかと。

その中ですごく気に入ってくれる人がいると、さらにうれしいです。
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K:
具体的にどういった場面で使ってもらうことを想定していますか?
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伊藤さん:
” ビジネスシーン ” はやはり外せないですね。
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名児耶:
日記を毎日つけるとか、そういう感覚ではなかったよね。
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伊藤さん:
その ” 使う場面 ” というのは、
打合せの最初の段階で、色々な議論をしました。

その時スッキリしたのが、今まで作ってきた「ドローイングパッド」とか
「メモブロック」は、どちらかというと ”室内” で描くもの。

だからNotebookは、
” 外でアイディアを書き起こすもの ” になったらいいのかな、
と名児耶さんが仰るのを聞いて、「そうだ、そういう使い方だよな」って。

なので、僕は、やはり仕事で使うことを考えましたね。

これを使って、なにか新しいものや
アイディアを作ってもらえたら、うれしいです。
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使い終わったノート と 愛用の文房具

K:
今回のNotebook製作にあたり、さまざまなノートを参考にされたとのことですが、

これまでお二人はどのようにノートを使われてきたのでしょうか。

実際に使用されていたノートをお持ちいただきましたが、
大人になると、他の人のノートを見る機会は少ないですよね。
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名児耶:
自分のもあまり見ない(笑)。
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伊藤さん:
僕も、あまり見返さないですね。
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K:
伊藤さんのこの大学ノートは、いつ頃に使っていたものですか。
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伊藤さん:
印刷会社で5年間営業マンをやっていたんですが、社会人1年目の日報です。

毎日その日にあったことを書いて、上司のハンコをもらって。
「新規受注が取れそう」とか、「失敗しちゃいました」とか。
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名児耶:
すごい、3名のハンコが押してある。
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伊藤さん:
そうなんです。係長、次長、部長みたいな感じでチェックが入る。
コメントが書いてあったり。

この上司のハンコなんか見ていると、
当時の上司の関係とか懐かしく思いますね。
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名児耶:
僕もその頃のノートを探したけれど、見つからなかった。
たぶん、捨てちゃったんだろうな(笑)
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伊藤さん:
僕は、机の奥に。これだけは捨てられなくて。
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名児耶:
(持参したノート類を広げながら)
僕は、とにかくいろいろな種類のものを使ってきているんですよね。

オキナの「Project Paper」だった時期もあった。
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伊藤さん:
サイズも2種類。B5とA4ですか。
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名児耶:
メモ用と、スケッチ用で分けているのかもしれませんね。
自分ではもう覚えていない。
この「Project Paper」って、今でも売っていますよね。
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伊藤さん:
定番ですね。
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*名児耶さんの過去のノート。仕事のメモやスケッチなど様々なものが描かれている
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伊藤さん:
このドローイングは、ずいぶん前のものですか?
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名児耶:
そうですね 製品の原案です。
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伊藤さん:
会社で描くんですか?それとも思いついたとき?
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名児耶:
会社で描くことは滅多にないです。

たいていこれは、ベッドで描く。
寝てて、ふっと思いついた時に忘れないように。
夜中に5~10分ぐらい絵を描いているときがある。
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K:
伊藤さんに持ってきていただいた日記帳は、すごく年季がはいっていますね。
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*伊藤さんにお持ちいただいた日記帳。表紙には「1964」の文字
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伊藤さん:
これ僕のではなくて、父の日記帳です。引き出しの奥からどっさり出てきまして。
毎年1月1日からつけていて、最初のページに1年の目標が書かれている。

中学を出てそのまま仕事に入ったので、これは17,8才くらいに書かれたものですね。
10代ならではの女の子のことだったり、会社をどうやって大きくしていこうとか。

悩みばっかりの暗い内容だけど、
今見ると、こういうノートってすごく大事だなって。
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K:
誰にも言えないことを書き留めているんですね
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伊藤さん:
仕事と生活が常に一緒だったから、
そういうことを書いていたんでしょうね。

今回「Notebook」を作る時に、
こういうノートになればいいなって思ったりしました。
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K:
ノートは、こうやって書いていくことで、
記録も記憶も蓄積されるところが、いいですね。
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伊藤さん:
そうですよね。
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名児耶:
これは、温泉にでも持って行って、ゆっくり読みたいね。
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K:
ノートの使い方に、その人のその人の個性や生き様などを感じました。

たまに振り返って、過去のノートを見たり、見せ合うのも面白いかもしれませんね。
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そして、ノートと同じように普段使いの文房具にも、人それぞれのこだわりが
表れると思い、
今回は愛用の筆記具もお持ちいただきました。

伊藤さん、こちらは何でしょうか?
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伊藤さん:
これは印刷の仕上がりを確認するときに使う「ルーペ」です。

たぶん小学校くらいのときかな、何故か父が浅草の松屋で買ってくれて。
小さくて使いやすくて、ずーっと持っています。
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名児耶:
(ルーペをのぞきながら)確かによく見える。
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伊藤さん:
大きいものだと、もっとはっきり見えるんですけどね。

あとは、ずっと使っている筆記具は、
ぺんてるの「サインペン」。
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名児耶:
僕も使っている。
これは先が筆ペンみたいになっている。
「筆タッチサインペン」。
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伊藤さん:
(書いてみる)ほんとだ!筆っぽい。
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名児耶:
筆ペン系って楽しいですよね。
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K:
お二人ともぺんてるの「サインペン」愛用者ということに驚きました。

Notebookも「サインペン」のように永く愛される定番品になっていくと、
うれしいですね。
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*サインペンの描き心地を試す、名児耶と伊藤さん

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中篇はここまで。
こだわりと、技術がつまったノート作り、いかがでしたでしょうか。

後篇では、伊藤バインダリーさんの会社にへ伺い、
製本作業や今後の展望などについて、お聞きします。
*後篇は1月上旬の公開を予定しています。
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*「Notebook」の製品情報については、こちらからご覧いただけます。